藤崎慎吾・田代省三・藤岡換太郎『深海のパイロット』
潜水調査船“しんかい2000”“しんかい6500”の解説。
こちら(深海のパイロット@もつくん2の本棚)のコメントを読んで、なかなかおもしろそう、と気軽に買ったのだが……思ったより盛りだくさんで、なんだかお買い得感高し。
- 作者: 藤崎慎吾,田代省三,藤岡換太郎
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2003/07/17
- メディア: 新書
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著者3人が1セクションづつ担当する三部構成。
第一部の藤崎慎吾「深海にはおもしろいエピソードがいっぱい」が全体の 2/3を占め、しんかいシリーズの建造目的であるとか性能や運用方法、主要な成果といったものが語られる。内容は真面目だが、パイロットを始めとした関係者からの聞き書きを整理したものという雰囲気を基本に、執筆者自身のインタビュー模様や潜航時の音声記録なども交えて語り口が工夫され、飽きがこないし読みやすい。数字的なものはともかく、“しんかい”の具体的な運用のしかたであるとか、出来ること・出来ないことなどがすんなり頭に入る。関係者の間では、 “しんかい2000”が2K、“しんかい6500”が6Kと呼ばれるらしいが、そういう呼び方がごく自然に感じられるようになって親しみが湧いてくる。
雑学的・トリビア的な要素もほとんどこの第一部。特に印象深かったのは、6Kがアメリカの“アルビン”とジョイントで大西洋中央海嶺の熱水マウンド調査に潜るエピソード。当初、アルビン・チームのメンバーに「きれいな船体だね(=あまり使い込んでいないんじゃないの?)」という皮肉を言われたしんかいチームだが、実際の調査活動ではアルビンよりもブラックスモーカー(熱水の噴出口)に近いところに調査機器を設置して相手を驚かせたという話など、小説的ですらある。噴出した熱水によってボディのFRPカバーが溶け、ついた“焦げ目”が「深海調査船の勲章」だという……
さらにお買い得感を感じたのは、潜水調査船の話に終わらず、シートピア計画・ニューシートピア計画といった、飽和潜水による海底長期滞在実験のエピソードに1章を割いて解説してくれているところ。窒素をヘリウムに置き換えた混合ガスによる飽和潜水とか、DDCやSDCといった加圧室を用いた大深度への潜水とか、キーワードはなんとなく知っているものについて、全体像を分かりやすく説明してくれている。300mの海底では、ヘリウムを使った混合ガスを31気圧にを加圧する。そうなると、声はもちろんヘリウムでドナルド・ダック声になるわけだが、他にもいろいろ問題が。たとえば、食べ物がどうなるかなど、なかなか興味深い。
このメインディッシュの第一部に、パイロットと科学者という専門家の立場から第二部・第三部で補足があるところもgood。
さて、この本は、しんかい2000が予算不足で運用停止となったことから、有人の潜水調査船の有用性のアピールを行うということも出版の背景にあるようだ。素人目にも、折角2隻あるものを1隻しか使わないというのも解せないような。事故っても1隻ではフォローのしようがないわけだし。予算の問題はよくわからないが、レアメタル不足が言われる昨今、ふたたび海底の資源に注目が集まって、しんかい2000の運用再開ということにはならないのだろうか。
関連リンク
- 大石英司の海洋と深海SF@西村屋
- 潜水調査船が活躍する小説と言えば大石英司作品だよなぁと思っていたら、氏の作品のうち、海洋ものの情報を集めたページを作っている方がいらっしゃいました。なんと言っても『シーナイトを救出せよ (講談社文庫)』で大西洋に緊急空輸されての大活躍が記憶に残ってます(6Kだと思っていたら2Kだった)。あとは、 JAMSTECから海上自衛隊まで大活躍の『深海の悪魔』。これは大作すぎるせいか、他の作品ほど詳しい情報がなくてちょっと残念。潜水調査船じゃないけど、シービュー号ばりの科学調査潜水艦が登場する『アキレス浮上せず (カドカワノベルズ)』も印象的。