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日本SF作家クラブ編『日本SF短編50 I』 感想

これは買わねば、と思っていたアンソロジー
近所の本屋にちょうど配本されたところをゲット。



日本SF作家クラブ創立50周年記念として刊行されるこのアンソロジー・シリーズ、全5巻に収録される作品のリストは、すでにハヤカワ・オンラインに掲載されている。あの人は入らいないの?などとというファンの勝手な想いはあるものの、早川書房という出版社と作家勢の間に微妙な関係があるらしいことは一介のファンにも感じられることで、こうしたアンソロジーが刊行されるだけで嬉しい。


この嬉しさがどこから来るかというと、この1963年から年1本の作品を選んで収録するというアンソロジーの構成が、なんだか自分の来し方を振り返るような思いを起こさせるからだろう。70年代の終わりごろにSFというジャンルの存在を意識して読み始めた自分には、1960年代に書かれた主要作家の短篇集というのが、まさに日本SFの入門書だった。それ以来、このジャンルを軸に読書してきた自分にとっては、各年ごとの収録作やその著者の名前はいちいち懐かしさを感じさせるようだ。


さて、記念アンソロジーの第1巻は1963年〜1973年に発表された作品。日本SF勃興期というべきこの10年の雰囲気は想像もつかないが、最初の10年にしてこれだけの作品生み出されたとは、それ以前にSFが商売にならなかったとは信じられない。

その中でも、以下の作品は特に印象深かった。

最初に目覚めた時、厚い二重窓のむこうに、巨大な宇宙船が怪鳥のような脚を張って基地のドーム群すれすれに高度を下げて進入してくるのが見えた。

いやもう、この書き出しに痺れた!
タイトルの2007年を現実が追い越してしまったように、設定のほとんどはレトロなものになってしまったが、未知へと挑む孤高のパイロットの姿は古びず、ただもう格好良い。この空漠に投げだれる人間の孤独が光瀬龍だよなぁ。最近の作品で言えば、上遠野浩平の<ナイトウォッチ>シリーズに通じる感覚かも。

著者の同題の短篇集を読んでこの作品にビックリしてから、<惑星>シリーズ(<ヒノ・シオダ>シリーズとも言うのかな)は一生けん命読んだのだけど、この最初の作品と同じくらい驚いたのは、ぶっ飛び具合が突き抜けた「ブラックホール惑星」くらい。オチを憶えていても、未知の惑星の謎が次第しだいに解けていくおもしろさは格別。主人公2人が陥る境遇がメチャクチャ痛そうで、その点からも印象に残っていたのだけど、やっぱり痛そうだった。

半村良の名前は最近聞かないんだけど、もったいない。日本のSF作家の中で、この人ほどストーリーテリングが上手い人はいないのでないだろうか。半村良は伝奇SFで有名になったわけだが、時代小説の名手でもある。そのSF的要素と時代物の要素がうまく溶け合わさった名作。半村良はストーリーもいいんだけど、美女を書くのもうまい。この作品のヒロインも魅力的で、主人公と一緒になって惹きつけられてしまう。


これら以外の作品も、 野田昌宏お得意のウンチクが楽しい「OH! WHEN THE MARTIANS GO MARCHIN'IN」、マスゴミ批判の人にぜひ批評して欲しい筒井康隆「おれに関する噂」、<要塞>や<艦隊>シリーズからは想像もできない荒巻義雄「おおいなる正午」……と満足度高し。


このアンソロジーを読んで、60年代・70年代の日本SFを読む人が増えるといいんだけどなぁ。

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