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時々書く読書感想blog

チャイナ・ミエヴィル『言語都市』感想

『ペルディード・ストリート・ステーション』『都市と都市』の2作を楽しませてもらったチャイナ・ミエヴィルの新刊。これを読まんでどうする、ということで、発売前からhonto.jpで予約して購入。まあ、hontoのポイントの期限が切れそうだったからだけど。

言語都市 (新★ハヤカワ・SF・シリーズ)

言語都市 (新★ハヤカワ・SF・シリーズ)

読み始めてみたら、導入部、話に乗れずに辛い辛い。『ペルディード』もそうだったしなぁ〜と思ってみても、今一ページが進まない。70ページ過ぎたあたりでウ〜ンと思っていたら、ちょうど小川一水氏の



というつぶやきがあって、気が楽になった。確かに80ページあたりから話が動き出して、読みやすくなります。


ひと通り読んだところでは、言語テーマのアイデア型のストーリーという趣き。
なにせ、異星人の話すゲンゴという言語(ややこしい)の設定がすばらしく、また、そのゲンゴの混乱とそこからの回復というストーリーには、SF作品ならではの驚きがある。さらには、すべての工業的要素が生物ベースで成立しているという異星人文明や、イマーと呼ばれる超空間(?)を利用する恒星間航行の描写もエキゾチックでいい。


一方、奇妙な言語を話す異星人と向き合う人類側の設定と描写も、この物語のもう一方の魅力。二重言語を話す異星人との交渉のために、人類側は「大使」という人々を生み出すのだが、その「大使」が具体的にどういう存在なのかは、冒頭部では明らかにされない。そこが、ストーリーの初めの方の読みにくさに繋がっている。しかしその分、異星人たちとともに大使達が登場する80ページ目あたりから、がぜん、面白くなってきた。


結局、読み終わってみると、ゲンゴと大使の設定や、社会から孤立したヒロインの立場、ヒロインとそのパートナーの出会いと別れ、物語が厳格な一人称描写で貫かれていることなど全てが、異星人が話す物語の重要なキーフレーズ、「人間たちがやってくるまで、われわれはしゃべらかった」という言葉に繋がっていたのだなぁと思えた。つまり、異星人の言語の問題だけではなく、ヒロインにおける「私とあなた」という他者との関係性の獲得がもう一つのテーマなんだろうということが、ラストにヒロインが持つ惑星社会への明るい展望として一気に実感できたということなんだけど……

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