メディヘン5

時々書く読書感想blog

感想:C.L.ムーア『シャンブロウ』

なぜか忘れがたいノースウェスト・スミス。シャンブロウ、ノースウェスト・スミス、「地球の緑の丘」といった単語が基礎教養のように感じられるのは、思春期に野田昌宏氏のスペースオペラ話を読んで育ったからかも。一作目の「シャンブロウ」(1933)から最終作「短調の歌」(1940)まで<ノースウェスト・スミス>ものを網羅して、これ一冊読めばOKという素晴らしい短編集。

商業誌に発表された10篇は、起:NW・スミスが怪しげな何か(物や人)と出会う→承:幻想的な美女の登場→転:超自然的・超宇宙的な脅威の出現→結:熱線銃をぶっ放して脱出、というフォーマットが共通なのだが編集からの指示があったのだろうか。話の作りが同じなので飽きそうなのだけれど、導入部分(起パート)の作りがうまかったり、美女や脅威の描写が丁寧に書き込まれているので「また次も読みたい……」となってしまうのがさすが。

野田昌宏氏の文章からスペースオペラの古典として頭に残っているのだけれども、改めて読むとスペース・ゴシック・ホラーと言いたくなる。このスペース・ゴシックの部分をコズミックと置き換えれば、ラヴクラフトや夫のカットナー、ムーアと親交があったとされるロバート・ブロックの作風であるコズミック・ホラーと同分野と見ても違和感がない。大恐慌後のこの時代、こうした人たちがどういうコミュニティを作ってどういうやり取りをしていたのか知りたくなる。芳紀22才の読書好きの女性が性別を隠してスぺオペ的な味付けのホラーを投稿するに至った経緯も気になる。

ところで、どうもノースウェスト・スミスという名前が忘れがたいのは、コードウェイナー・スミスクラーク・アシュトン・スミス、E.E.スミスといったいずれも個性的な名前のスミスたちとセットで頭に焼き付いているからかもしれない。中学生のころようやく手に入れたハヤカワSFの『大宇宙の魔女』と相前後して読んだ成田美奈子『エイリアン通り』の主人公シャール君の名前にぶっ飛んだインパクトもあるかな。

また、今回、短編集を読みながらWikipediaを眺めていたら、作者C.L.ムーアが「SF界において『フランケンシュタイン』の作者M.W.シェリーに次ぐ枢要な女性の地位に置かれることになった」とされたこととか、「地球の緑の丘」という詩はNW・スミスが元で、ここからハインラインが詩人ライスリングが登場する短編を書いた(順序が逆だと思っていた)といったと新たな雑学を(今さら)仕入れてしまった。