『星の海を駆ける: 新世代スペース・オペラ傑作選 (創元SF文庫)』を読みました。タイトル通り、2012年から2023年までの約10年間に英米で発表されたスペース・オペラの短編を集めた短編集です。
「新世代スペース・オペラ」というものについて、編者ストラーンの序文では、
二〇二〇年代において、ニュー・スペース・オペラの影響は消化され、スペース・オペラそれ自体は、広大なテイクスカラアン帝国(『帝国という名の記憶』)の舞台となる星間国家)と『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の輝くパルプマガジン的活力のあいだのどこかに存在している。
と書かれています。この文章と序文に書かれたスペース・オペラ作品の歴史を読んで、これまでスルーしてきた『帝国という名の記憶』『平和という名の廃墟』がけっこう重要作品で、やはり読まなきゃなダメなんだなーと思いました。
印象に残った収録作品
さて、「新世代」という点はさておき、スペース・オペラですと言われた時に何を求めるか。
私の場合、まずは「どんぱち感」でしょうか。スペースシップでかっ飛んで巨大な敵を翻弄する、そのスピード感とスケール感、それが、まずはスペオペに求めるものですね。この点から見て本書収録先で一番面白かったのは、チャーリー・ジェーン・アンダーズ「時空の一時的困惑」 です。無数の眼を持った太陽系の半分規模の巨大な肉塊を崇拝するカルト宗教から超テクノロジー・ガジェットを盗み出した二人組が、続いて、星間国家規模の犯罪組織が保有する究極兵器を盗みださなければならない羽目になるという、一歩間違うとバカSFなスラップスティック。
スペース・オペラには謎やサスペンスに満ちた冒険ロマンス感も欲しいですね。この点から面白かったのは、サム・J・ミラー「惑星執着者」。転送ゲートで星々が結ばれた星間社会。故郷の惑星から飛び出してセックス・ワーカーとして働く主人公が、転送ゲートが全て破壊されて到達不能になったはずの故郷のコインを使った男を発見しその謎を解追い始める、というアクション&サスペンスです。ラスト、謎の答えというのが腰砕けになってしまっているのが残念なのですが、追跡の過程が楽しめました。主人公と追跡に協力する主人公の顧客複数がみんな男性、というのが現代風。
あと巨大は星間国家や銀河帝国がないとね。そして、そうした帝国への反抗という、反帝国感というのも欠かせません。この方面で面白かったのは、アリエット・ド・ボダール「包嚢」 です。辺境の都市のレストランで働く、中央エリートへ進む道に失敗した娘と中央の独占テクノロジーをハッキングしようといじくり回す双子の妹。ある日、レストランを訪れた重要顧客の妻は、中央で使用されている包嚢(外見と振る舞いを最適化するガジェット)に問題を抱えていて……コロニアルなアジアンテイストの雰囲気の中で、革命の萌芽が描かれた作品です。
ネットの皆さんが選ぶ収録作品ベスト5
この短編集、設定やストーリーの背景が飲み込みずらかったり、ジェンダー思想で強く味つけられた作品が多く、スペースオペラというには幅広いというか、癖の強い作品が集められている印象です。他の人たちはどういう作品を支持・評価されているのか知りたくなり、ネットに投稿された感想を見てみました。
読書メーターやX、ブクログなどに投稿された本書の感想を拝見し、特定の作品の名前をポジティブにあげている場合にその作品に1点をつけるというやり方で、18件の投稿から選出された本書収録先のベスト5は次の通り。
- 第1位:チャーリー・ジェーン・アンダーズ「時空の一時的困惑」
- 第2位:アリステア・レナルズ「ベラドンナの夜」
- 第3位:ベッキー・チェンバーズ「善き異端者」
- 第4位:セス・ディキンソン「モリガン、光に落ちる」
- 同じく第4位:サム・J・ミラー「惑星執着者」
1位になった「時空の一時的困惑」はアホらしいまでのスケール感を評価する人が多いようでした。
第2位のアリステア・レナルズ「ベラドンナの夜」は、さまざまな系統の人々(?)の20万年がかりの銀河周回の完了を祝し、集められた経験の総和をアップロードする祝祭の場。参加した主人公が感じた違和感がどんどん膨らんで意外な結末へと至るという、銀河スケールなロマンティックストーリー。
第3位、ベッキー・チェンバーズ「善き異端者」。ウィルスに感染することで脳を改造し、超光速航法のナビゲーション能力を身につけるという種族。種族の良き一員を目指す少女が、ウィルス感染がうまくいかず自分自身の進む道を模索する話。
第4位に上がったセス・ディキンソン「モリガン、光に落ちる」は、この短編集では唯一のミリタリー系スペースオペラ。異星人襲来への対応方針の分裂の結果、人類同士が内戦を繰り広げる太陽系で過酷な戦いを続ける主人公の出会いと別れを描くストーリーです。
このネット調査では、14編の収録作品ほぼ満遍なく名前が上がっていたんですが、唯一、アン・レッキー「審判」に票が入りませんでした。取り上げられている作家の中では、スペオペ作家として一番有名だと思うんですが……収録された作品にあまりスペオペ感がなかった(解説でもサイエンス・ファンタジーと書かれている)せいかもしれません。