メディヘン5

時々書く読書感想blog

読書メモ:アーシュラ・K・ル=グウィン『ファンタジーと言葉』

ル=グウィンによる物語論・創作論を中心としたエッセイ集。原書は2004年刊行(著者75歳、《西のはての年代記》三部作刊行開始前後のタイミングか)それほど思い入れがある人では無いし、自分自身は創作しようというタイプでもないのだけど、読み流すには惜し…

感想:アダム・ロバーツ『ジャック・グラス伝』

ミエヴィルもストロスも日本では当分新作が出そうに無い、しかし何か(近年の)英国SFが読みたい……ということで、名前は聞くけど読んだことのない作家であるアダム・ロバーツの本書を注文した。読んでみたら、英国SF云々とは別の意味で、大変、面白かった。…

感想:ノーマン・マクレイ『フォン・ノイマンの生涯』

フォン・ノイマンというと、長い間、現在のコンピューターを定義したとも言えるノイマン型アーキテクチャの提唱者としてしか知らなかった。しばらく前、フリーマン・ダイソンの息子ジョージが書いた『チューリングの大聖堂』を読み、計算機分野に収まらない…

感想:新城カズマ『月を買った御婦人』伴名練編

ラノベ作家として知られる新城カズマ氏のSF系短編10編を集めた作品集。「日本SFの臨界点」というアンソロジーテーマに、ハヤカワ文庫JAなのに真っ赤な背表紙と気合い入りまくり。『サマー/タイム/トラベラー』から読み始めたニワカなので、編者・伴名練によ…

感想:ジャック・ヴァンス『奇跡なす者たち』

国書刊行会<未来の文学>シリーズの一冊として出版されたジャック・ヴァンス傑作選。朝倉久志氏の遺訳5編(うち初訳2編)を含む全8編を収録。既訳作品も全て全面改訳、16ページもあるヴァンス評伝+収録作解題+ヴァンス全著作リスト8ページという豪華版「…

感想:C.L.ムーア『シャンブロウ』

なぜか忘れがたいノースウェスト・スミス。シャンブロウ、ノースウェスト・スミス、「地球の緑の丘」といった単語が基礎教養のように感じられるのは、思春期に野田昌宏氏のスペースオペラ話を読んで育ったからかも。一作目の「シャンブロウ」(1933)から最…

感想:『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』 アマル・エル=モフタール,マックス・グラッドストーン

読む前の期待が膨らんでいたのだが、それを裏切られず満足。とにかくどこもかしこもエモいエモSFだった。こうしてあなたたちは時間戦争に負ける (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5053)作者:アマル・エル=モフタール,マックス・グラッドストーン早川書房Amazonま…

感想:ヘンリー・ジェンキンズ『コンヴァージェンス・カルチャー』

90年代の米国ファンダム文化研究の延長としてインターネット時代初期のファン参加型コミニュティの実相を渉猟し、メディアとファンの関係変化の様相を報告。主に取り上げられているコンテンツ=コミュニティは、『サバイバー』『アメリカン・アイドル』『マ…

感想:高山羽根子『暗闇にレンズ』

「暗闇にレンズ」が浮かんで見つめているというイメージが不穏。一人称の女子高生パートのSideAと明治時代から始まる母娘たちの映像に関わる人生を追うSideB、いずれもレンズという「眼」を意識するとやはり不穏さが募って展開にハラハラさせられる。さらに…

感想:ジェイコブ・ソール 『帳簿の世界史』

人類の歴史の中でも、これほど進歩が遅い技術分野は珍しいのでは。「すばらしく輝かしく、途方もなく大変で、圧倒的な力を持ち、しかし実行不能」(ディケンズ)という帳簿・会計の歴史をたどると、会計をうまく扱って成功するには生活・文化の一部に溶け込…

感想:ジミー・ソニ, ロブ・グッドマン『クロード・シャノン 情報時代を発明した男』

情報について学ぶと教科書の一番最初に出てくるシャノン。そのシャノンの伝記が出たというので読んでみた。デジタルとビットの概念を見出したシャノンは、コンピューターとインターネットの歴史の最重要人物だろう。そのシャノンの伝記というものが2017年に…

感想:ケイト・ウィルヘルム『鳥の歌いまは絶え』

名訳タイトルが心に刺さるディストピアSFの名作。 破滅から逃れるため生み出され高度な共感能力で排他的に結び付くクローンたちと、様々な経緯で「個」として生きるしかなくなった人々の相克が三部に渡って描かれる。個と集団の葛藤というのは、アメリカ建国…

感想:マーサ・ウェルズ『マーダーボット・ダイアリー』

弊機、という一人称が発明されたという紹介を読んで、一発で読みたくなった。他人の行動がうっとおしくて、見られたり触られたりするのが嫌。好きなのはドラマを視ることだけで、知っている常識はドラマから学んだことだけ。ってまるで、***のことみたい…

2019年に読んだ本

2019年はここ数年の中ではかなり本を読んだ。 10年ほど「小説家になろう」にはまっていたのが、ようやく抜け出してきたみたい。 年末から年越しで『零號琴』を読んだのに始まり、『三体』『なめらかな世界と、その敵』『息吹』といったSF界隈(大森望界隈?…

チャイナ・ミエヴィル『言語都市』感想

『ペルディード・ストリート・ステーション』『都市と都市』の2作を楽しませてもらったチャイナ・ミエヴィルの新刊。これを読まんでどうする、ということで、発売前からhonto.jpで予約して購入。まあ、hontoのポイントの期限が切れそうだったからだけど。言…

日本SF作家クラブ編『日本SF短編50 I』 感想

これは買わねば、と思っていたアンソロジー。 近所の本屋にちょうど配本されたところをゲット。 日本SF短篇50 I (日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー)作者: 光瀬龍,豊田有恒,石原藤夫,石川喬司,星新一,福島正実,野田昌宏,荒巻義雄,半村良,筒井康隆,…

ハンヌ・ライアニエミ『量子怪盗』 感想 

読みたい/読まなきゃいけない本が溜まっているので、この本は昨年出たとき以来スルーしてきた。しかし普段読ませていただいてる書評系のblog複数での好評価を見て、どうしても気になったので結局、購入。Kindle版も出ているけど、ここは紙版を購入。銀背から…

彭丹『中国と 茶碗と 日本と』 感想 この謎はおもしろい

HONZ.jpのレビュー(『貧乏するにも程がある』 - HONZ)を読んで興味を惹かれ、購入。中国と 茶碗と 日本と作者: 彭丹出版社/メーカー: 小学館発売日: 2012/08/31メディア: 単行本 クリック: 13回この商品を含むブログ (11件) を見る 茶道・茶の湯で用いられ…

[日本SF][海外SF]SFマガジン編集部『SFが読みたい! 2013年版』 感想

昨日、地元・西荻窪の本屋を廻って三軒目の書店で購入。SFが読みたい! 2013年版作者: SFマガジン編集部,Pablo Uchida出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2013/02/08メディア: ムック購入: 3人 クリック: 22回この商品を含むブログ (28件) を見る ベストSF2012…

西荻窪の新刊書店で『SFが読みたい!』を探したら

昨日、三連休の初日をベッドに篭ってうたた寝とネット小説三昧で潰したところ、カミサンから「あまりに不健康」とダメ出しを喰らった。いいじゃない、何もイベント無いんだから……で、連休中日の今日は散歩の一つも行ってこいとなったので、ブラブラ歩きなが…

ケイジ・ベーカー『黒き計画、白き騎士』感想 カリフォルニア歴史観光SF

ネットで見ていたらおもしろそうだったので。 タイムトラベル+秘密結社→歴史に潜む謎と陰謀、というと際物っぽいのだけど、それが高い評判とどう結びつくのか興味があった。黒き計画、白き騎士: 時間結社〈カンパニー〉極秘記録 (ハヤカワ文庫SF)作者: ケイ…

Kindle PaperWhiteを買った、KDP本も買った

Kindleの最初のバージョンが出た頃から、「e-ink/電子インク端末は本を読むのにピッタリ」という話があって、ずっと興味を持っていた。昨年、KoboやらKinldeシリーズやらが国内販売になって物欲に火がついてムズムズしっぱなしだったのだけれど、ついに、Kin…

小田雅久仁『本にだって雄と雌があります』 感想: 関西弁・家族・本

どういう話なのか粗筋を知る前にkakidashi.comで、 あんまり知られてはおらんが、書物にも雄と雌がある。 という書き出しを見て気になっていた。よく意味がわからないのに断定されると、「そうだったのか」と思わされてしまうような……本にだって雄と雌があり…

栗原景太郎『白鴎号航海記』 感想

1970年刊行の日本人初のヨットによる世界周航記。昨年、ムスコと神田古本まつりに行った際に購入。@ワンダーの路地裏書棚から拾った。値段を見ると210円なんだけど、ネットで値段を調べるとお買い得だったのかもしれない。白鴎号航海記 (1970年)作者: 栗原景…

藤井太洋『Gene Mapper』 これが出たから今年が電子書籍元年

この『Gene Mapper』が出たから今年が日本の電子書籍元年と言えるのだ、というのは書きすぎ? Gene Mapper -core- (ジーン・マッパー コア)作者: Taiyo Fujii出版社/メーカー: Taiyo Lab発売日: 2012/07/12メディア: Kindle版購入: 7人 クリック: 58回この商…

冲方丁『光圀伝』感想 冲方エンタメとの類似性

地元の本屋で購入。読み始める前は通勤中に読むつもりだった。ところが、この本を読む前にハードカバーの『BEATLESS』を通勤中に読んでいてなかなか辛かった。さらにブ厚い本書を通勤電車の中で読むのは無理だ、ということになって寝る前にベッドの中で読む…

年末恒例のまとめ買い

年末恒例の本のまとめ買い。購入先はhonto.jp。外資な上、消費税問題があるアマゾンで買うのも妙に気が引けるので。honto以外の「国産」書店で買ってもいいんだけど、ここで買うのは、bk1時代からのご縁から。でも、bk1からhontoに移行してから個性が薄くな…

チャイナ・ミエヴィル『ペルディード・ストリート・ステーション』『都市と都市』感想

カミサンとジュンク堂本店のSFブックミュージアムに行った際、「そういえばこれはエラく評判が高かったようだぞ」と思って買ったのが『ペルディード・ストリート・ステーション』。この作品については、このblogの中断前の最後の記事、『SFが読みたい!』201…

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』感想

思い立って、今日観てきました。ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Qとは編集劇場用アニメ。2012年11月17日公開。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」第3作。「Q」はQuickeningの略。企画発表時は「急」と表記されていた。同時上映「巨神兵東京に現わる 劇場版」次回作は…

長谷敏司『BEATLESS』 ラノベの王道と思ったらSFの王道だった

いやー、読み始めの印象と違って、ゴツい話だった。 頭に残ったキーワードは、アナログハック、自動化、フレーム問題、道具、といったところかな。BEATLESS作者: 長谷敏司出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)発売日: 2012/10/11メディア:…