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時々書く読書感想blog

アレクサンドル・デュマ『三銃士』友を選ばば三銃士!

どこかの書評で知って佐藤賢一氏の『ダルタニャンの生涯』を読みたくなったのだけれど、そもそも『三銃士』をまともに読んだことがない。こりゃいかん、ということで読み始めたもの。

三銃士 上
三銃士 上
posted with 簡単リンクくん at 2006.11. 4
デュマ作 / 生島 遼一訳
岩波書店 (1979)
ISBN : 4003253388
価格 : ¥798
通常2-3日以内に発送します。

三銃士 下
三銃士 下
posted with 簡単リンクくん at 2006.11. 4
デュマ作 / 生島 遼一訳
岩波書店 (1981)
ISBN : 4003253396
価格 : ¥798
通常2-3日以内に発送します。


■あらすじ

17世紀のルイ13世治下、絶対王制を確立した後代ルイ14世期と異なり、内には貴族の反乱や抗争、外にはイギリスをはじめとする諸外国との緊張関係という問題を抱え、まだまだ荒々しい世情だった時代のフランス。

南部ガスコーニュ地方から立身出世の夢を抱いて花の都パリを目指した小貴族の息子ダルタニャンは、パリで頼った同郷の大先輩、近衛銃士隊のトレヴィル隊長の屋敷で、アトス・ポルトス・アラミスという三人の先輩銃士と出会う。ひょんなことから、三人の銃士達それぞれと決闘を行うハメにおちいったダルタニャンだったが、三人と共に決闘をとがめた宰相リシュリュー枢機官の護衛士達と戦い、意気投合する。

友の誓いを結んだダルタニャンと三銃士は、リシュリュー枢機官が王妃アンヌの失脚を狙って引き起こした陰謀に巻き込まれる。王家に忠誠を誓う近衛銃士である彼らは、枢機官の配下のロシュフォール伯、美貌の悪女ミレディーの暗躍を阻止すべく、冒険を繰り広げることになる。


■感想

この小説、タイトルは『三銃士』なんですが、三人の銃士の物語、というわけではなく、若き主人公ダルタニャンが三銃士と共に立ち向かった冒険についての物語なのである、ということは、子供のころ“世界の名作紹介”みたいなものを読んで知っておりました。

当時、子供心にアレッと思ったのは、三銃士とダルタニャンがチームを作るという話ならなんで『四銃士』というタイトルじゃないんだろう、ひょっとしてダルタニャンはなんとなく仲間はずれだったり、ずっとおミソ扱いだったりするわけ?、などと言う点。

こういう疑問を持っていたこと自体、今回『三銃士』を読み始めて思い出したのですが、読み進むうちに、この疑問がすっかり氷解しました。ようするに、主人公はあくまでダルタニャンで、彼のさまざまな冒険譚の中で、最初の、そして三銃士という朋友を得て行われたのが、この『三銃士』というエピソードあるということなんですね。

沈着冷静なリーダー肌のアトス、豪放磊落な好漢ポルトス、クールで知性派のアラミスという、三人の銃士もそれぞれ魅力的なのですが、ガスコーニュ人の典型とされるダルタニャンの魅力と活躍にはかなわない。

ガスコーニュ人の性格について、「快活、陽気、嘲笑的、狡猾、勇敢等の顕著な特色があるので有名だ」と訳注で述べられています。『三銃士』のダルタニャンは、この記述とおりの性格に若さと純情を加えた人物、といったところ。まさしく冒険活劇のヒーローです。

とはいえ、三銃士の面々が、単なる主人公の引き立て役になっているわけではありません。三人それぞれ、先に述べた強みばかりではなく、一種の弱みを持たされていて、より陰影にとんだ魅力的なキャラクターになっています。さらに、三銃士とダルタニャンの従者たちや、彼らの上司にあたる隊長トレヴィル、彼らをとりまく女性陣など、これまた個性的な脇役勢が登場し、物語に起伏を与えてくれます。

一方、ヒーロー物のキャラクターとしては、悪役・敵役も重要です。この点も、この物語はさすがに充実していて、敵の黒幕役でありつつフランスを支える宰相としての度量も見せるリシュリュー枢機官、ダルタニャンの宿敵ロシュフォール伯、悪の魅力で主人公のお株を奪う活躍を見せる妖女ミレディーといった面々が、主人公たちをしのぐほどの活躍を見せてくれます。

この『三銃士』、1844年の執筆時42歳で既に一流の文筆家だったデュマが新聞連載して大成功を収めた作品。読む前は、さすがに古臭くて読み進むのに苦労するかと思っていました。それが、読み始めるととんでもない。現代のエンターテインメントを読むのと変わらぬ勢いでストーリーに引き込まれてしまいました。

それには、前述のキャラクター造形の妙によるところもありますが、また文章になんとも言えないテンポの良さというか勢いがある。訳された生島遼一氏が上手ということなのかとも思いましたが、まずもってデュマの文章に独特の魅力があるらしい。訳者解説ではデュマの文章について、次のように述べられています。
デュマのユニックな魅力は、言葉のいきおいとでも訳するより仕方のないこのヴェルブである。<中略>われわれは訪れた明るい客間の中で、大きな肉づきのいい手で握手され、ほがらかな高笑いをきくような、健康にみちた喜び、親しみを、開巻と同時にまず感じてしまう。
Amazonの書評には生島氏の訳を批判しているものもありますが、私はこうしたデュマの文章の魅力を十分楽しめました。