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時々書く読書感想blog

感想:新城カズマ『月を買った御婦人』伴名練編

ラノベ作家として知られる新城カズマ氏のSF系短編10編を集めた作品集。「日本SFの臨界点」というアンソロジーテーマに、ハヤカワ文庫JAなのに真っ赤な背表紙と気合い入りまくり。

サマー/タイム/トラベラー』から読み始めたニワカなので、編者・伴名練による、デビューから現在までの執筆歴27p、収録作品解題、長編・シリーズものを中心とした作品リスト/解説22pという構成の豪華解説がありがたかった。

収録作品は多彩なジャンルに渡ってどれも魅力的。看板背負った編者が力こぶで選んだだけのことはあって、どの作品も流石のクオリティで当たり外れなし。あえて一遍、自分の好みを選ぶと、物理的自然人とネット的架空人の狭間で揺れる少年少女の出会いと別れを描き、SF性と叙情性を併せ描いた「雨降りマージ」かな。

新城カズマというと、頭が良すぎて書かれている内容の本当の仕掛けまで手が届かない作家、という印象を持ってきたが、この作品でも印象が変わらなかった。社会メカニズムや技術の先進的概念(「議論の余地はございましょうか」のBIとか「アンジー・クレーマーにさよならを」の遺伝子編集とか「雨降りマージ」の「架空人」格とか)をガジェットとして使い、世の中の大変化を予感させる、というのがこの作家の一つのスタイルなんだと思うんだけど、その大変化の中身や変化後の世界は描かれず読者の想像に任される。しかし、読者たる自分には今一想像が及ばないところがあってフラストレーションを感じるところがある。こういう「この後はご想像通りです」というスタイルや、豊富なアイデアやガジェットが惜しげもなく注ぎ込まれているところ(仮想歴史改変SFである表題作に顕著)は、ウィリアム・ギブソンとも似ているのではないかと思った。

著者あとがきに書かれた「管見によればSFとは「つい根拠をもとめてしまうフィクション」なのです」という一節に膝を打った。こういうことがサラッと書かれているあたりが著者の頭の良さを感じるところ。