大森望責任編集『NOVA 1』 勝手に集計・収録作言及度数ベスト5
昨年末の大収穫、日本SF久々のオリジナル・アンソロジー『NOVA 1』。久々とか書いたけど、自分自身じゃ日本SFの書き下ろし/オリジナル・アンソロジーなんて読んだおぼえがない*1。これは読まずばなるまい、というところですよね。
で、『NOVA 1』も発刊から1ヶ月、そろそろいい感じに感想記事が出揃っているんじゃないか、ということで、『蒸気駆動の少年』、『虚構機関』に続いてやってしまいました、収録作ランキング。
今回、それなりの数の感想を読んだけど、やはり肯定否定入り混じりつつ言語SFが多いという感想が多いみたい。言語を通じて世界を視るというのはたしかにSFのある側面。しかしここまで直接的にそれを扱う作品が揃ったのは、電子書籍、Google、Twitterといったテキスト関係の話題が多かった2009年の状況を反映したもので、きっと、後で振り返ってみると、そうそうそういう時代があったよねと懐かしく振り返ることになるのでは、という気が。
一方、宇宙ものやハードSFなど、いわゆるSFらしいSFを求める感想も散見されたけど、大森アンソロジーにそれを求めるのは難しいのではなかろうか。ホントは、「SFらしいSF」のアンソロジーもちゃんとあって、それに『NOVA』が対置されるという状況があれば、わかりやすいんでしょうけどね。
収録作言及度数ベスト5
このベスト5は、『NOVA 1』の感想が掲載されたblogエントリーなどにおける個別作品への言及数を数えたもの。言及がある場合、ほとんどは気に入った・好き、というポジティブ評価だけれども、批判の言及ももちろんある。ただ、わざわざ言及があったということは、なんらかの強い印象を受けたということだと解釈して、ポジティブな言及とネガティブなそれをあえて区別せず、言及数としてカウント。作品にとっては話題にのぼらないのが最悪で、ポジティブだろうとネガティブだろうと言及がある方が無いよりまし、という考え方に基づいております。
たとえば、自分自身の場合、『NOVA 1』収録先からベスト3をあげろと言われれば、飛浩隆「自生の夢」・牧野修「黎明コンビニ血祭り実話SP」・小林泰三「忘却の侵略」の3作。一方、田中哲弥「隣人」はちょっとスパイスが効きすぎだよなぁ、というところ。ポジティブな言及だけ取り出せば最初の3作品だけど、最後にあげた作品も印象に残ったからあえて言及しているということで、名前のあがった4作品を全部カウントするというのが、今回の勘定のやり方。
対象としたのは、Google検索で見つかった約30件の記事+読書メーターの『NOVA 1』のページに寄せられた約40件のコメント。考課表方式をはじめ、全作品に言及している記事も多数あるけれど、今回のランキング的には意味がないので勘定に入れてません。twitterの#nova1ハッシュタグ付きつぶやきでの言及も勘定しようと思ったんだけど、過去のtweetが検索できず。まだまだ使えんなぁ。
で、結果はというと……
- 第1位 飛浩隆「自生の夢」(言及数=40件)
- やっぱりというかさすがというかの第1位。
伊藤計劃氏に対するオマージュ*2やGoogle問題への作家としての反応など*3、2009年にあったできごとに対する著者の想いが1個のSF作品の中に練りこまれている……という感想を持ったんだけど、こういう作品を同時代的に読めるのは大変ラッキーなこと。もちろん2009年の状況との関わりを想像しなくても優れたSF短編だと思うけど、未読の方には2010年代が進んで昨年のできごとが過去になる前に読むことをお進めしたい。しかし、昨年、GGGというタグをつけてGoogleに関するさすがの視点の記事をblogに書いてくれていた新城カズマ氏は、この作品を読んで驚いたんではあるまいか。『NOVA 2』で、思いっきり打ち返してくれたら、と読者としてはワクワクしちゃったり。
- 第3位 円城塔「Beaver Weaver」(29件)
- 自分自身は、今回調子が悪かったこともあり、いつにもまして理解困難だった本作品。でも、なぜか他の作品も読みたくなるんだよなぁ。
- 第4位 藤田雅矢「エンゼルフレンチ」(27件)
- 今回の上位3位まではまあ鉄板で、万一他の作品が上位に入賞したらおもしろいと思っていたのだけど、この作品が円城作品をおびやかすことになるとは、個人的にはちょっと意外。オーソドックスで上手な作品は強い、ということなんでしょうね。
- 第5位 田中啓文「ガラスの地球を救え!」(24件)
- ナンセンス脱力系も強いぞ! しかし、新作ヤマトの強力プロモーションが、こんなところにも仕込まれていたとはさすが大森編集(違。
残りの6作品については、それぞれ十数件程度の言及があって、どの作品もだいたい2割くらいの人が着目していたというところ。
いずれも個性的な作品ぞろいで、『NOVA 2』がますます楽しみ。
それに加えて今年は、角川書店からテーマ別再録アンソロジーが2冊出るということで、優れた短編SFをまとめて読める幸せが続くと思うと大ハッピー。年間SF傑作選の続刊にも大いに期待したいもんです。
NOVA 1 感想リンク集
上記の言及数の勘定は、次のblog等を拝見して行いました。勝手ながら敬称略・順不同で掲載させていただきます。
- ■感想 大森望編『NOVA 1 書き下ろし日本SFコレクション』: ★究極映像研究所★
- グレフルbook ... 書き下ろし日本SFコレクション NOVA-1/大森望責任編集/河出書房文庫
- バーと読書の日々:NOVA 1
- えびし フロムアウタースペース NOVA1読んだ
- http://plaza.rakuten.co.jp/kimagurebooks/diary/200912170000/
- http://ameblo.jp/jettvanels/entry-10405799550.html
- 大森望・責任編集「NOVA1」 : phantasmagoria
- http://d.hatena.ne.jp/yo32te/20091218/1261093780
- 『書き下ろし日本SFコレクション NOVA 1』 大森望責任編集 河出文庫 河出書房新社 - a_sue’s diary
- 忘れようとしても思い出せない日記 rebirth(2010-01-03)
- http://www2u.biglobe.ne.jp/~y-tanabe/day.html#20100110-1
- 廃墟通信(2009年12月28日〜2010年01月03日)
- 『NOVA1』大森望責任編集(河出文庫): 豆の日常
- http://hatenatunnel.appspot.com/h-moto/20091230/1262141944
- http://www.youchan.com/blogs/book/2009/12/nova_1.html
- http://d.hatena.ne.jp/p17n/20100107/p1
- NOVA 1---書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫 お 20-1 書き下ろし日本SFコレクション) - はてなキーワード
- 2010-01-04 - 這いつくばって生きている
- NOVA1 - ata3の日記
- NOVA 1---書き下ろし日本SFコレクション - ka-ka_xyzの日記
- 「NOVA1」読了。 - Lunatics a gogo
- NOVA1 ★★★★☆ - はてなべ −備忘録−
- NOVA1 - 名大SF研記録ブログ
- エレキングな日常。
- 大森望責任編集『NOVA1』 - くじら座タウ星府立大学SF研究会
- 2009-12-14 - 副長日誌 - 私的記録
- http://d.hatena.ne.jp/mostly_harmless/20091211
- NOVA 1---書き下ろし日本SFコレクション - 基本読書
- http://d.hatena.ne.jp/Gorgias483/20100118/1263824888
- 2010-01-18 - ジャックの腸
- 読書メーターのコメントページ
以下は、考課表等全作品への言及があったページです。
- 『NOVA 1』 考課表結果 - たまにしか更新しない日記
- 書き下ろし日本SFコレクションNOVA 1 @ val it: α → α = fun
- ■感想 大森望編『NOVA 1 書き下ろし日本SFコレクション』: ★究極映像研究所★
- 新作国産SF描きおろしアンソロジー『NOVA1』感想 - Biting Angle
- 『NOVA 1 書き下ろし日本SFコレクション』(大森望 責任編集):馬場秀和ブログ:So-netブログ
- グレフルbook ... 書き下ろし日本SFコレクション NOVA-1/大森望責任編集/河出書房文庫
- ばむばんか惰隠洞(2009-12-25)
- 内輪
- http://d.hatena.ne.jp/yo32te/20091218/1261093780
- 2010-01-12
- 2009-12-15
- 本を貶す:「NOVA 書き下ろし日本SFコレクション」大森望編/河出文庫 - livedoor Blog(ブログ)
- http://www.fukuoka-edu.ac.jp/~kanamitu/Blog/2010/01/nova_1.html
- 2010-01-23
*1:2000/12に日本SF作家クラブ編『2001』が出ているが未読。他にあったっけ・・・・・・
*2:自分でもそのうち忘れそうだから書いとこ。「大量虐殺を引き起こすメディア」対「言葉だけで人を殺す作家」とか、それぞれ死と生を選んだ二人の天才少女、なんてあたりが伊藤作品の裏返しのように感じたということから。
*3:これも。Google Book Searchによる究極図書館計画はもちろん、学習するWebという考え方やTwitterのリアルタイム検索の延長上のアンビエント・ストリームというアイデアとか、まさに2009年に顕在化したビジョンや動向をリアルタイムに織り込んでSFとして咀嚼していることがすばらしい。昔のSF作家はNASAの発表を取り込んだわけだけど、これからのSF作家は……