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フリッツ・ライバー『跳躍者の時空』感想

ライバー! 高い期待を裏切らない高い満足感。奇想コレクションの中でも、特にお気に入りの1冊になりそう。

跳躍者の時空 (奇想コレクション)

跳躍者の時空 (奇想コレクション)

フリッツ・ライバーの名前が頭に焼きついたのは、『闇の聖母』。一昔前のサンフランシスコを舞台にして、風変わりな古書を手に入れた独身中年作家が、怪奇と幻想の世界に巻き込まれていくというストーリー。クラーク・アシュトン・スミスやラブクラフトといった実在の作家をネタに使っているところが、日本の伝奇小説のようで印象的な作品。また、アメリカのインテリ独身中年男性の生態や、そのガールフレンドとのやり取りがなかなか楽しい。

この『闇の聖母』に登場する主人公のガールフレンド、若々しく快活なインテリ女性であり、また"白い魔女”の属性を備える存在として描かれている。これはそう、『跳躍者の時空』に収録作のヒロインたちのイメージとまさに重なるところ。1943年に書かれた『妻という名の魔女たち』のヒロイン、タンジィだってそうしたヒロインの一人なのだから、まさにこういう女性がライバーの好み、ということなんでしょうね。

妻という名の魔女たち (創元SF文庫)


さて、『跳躍者の時空』。どの収録先も楽しく読めて、よくある“合わない”作品が無く、大変得した気分。

強いて印象に残った作品をあげると、まずはガミッチ・シリーズから表題作「跳躍者の時空」。若い猫ってこんなことを考えているのか(?)という驚きもさることながら、そこにとどまらないストーリーに広がりに痺れた。このタイトルも一度読んだら忘れられないよなぁ。

「骨のダイスを転がそう」は、『マルドゥック・スクランブル』に先立つカジノSFの傑作(違)。

「春の祝祭」は、ライバーのインテリ白魔女っ娘趣味全開の華やかさが楽しく、巻末にふさわしい作品かと。

出版をずっと待っていたわりに刊行後すぐに読むことができなかったのだけど、楽しみにしていた甲斐のある一冊で、よかったよかった。

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