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時々書く読書感想blog

ゼナ・ヘンダースン『ページをめくれば』

ページをめくれば (奇想コレクション)

ページをめくれば (奇想コレクション)

ゼナ・ヘンダースンと言えば、<ピープル>シリーズ。と言うことで、自分でも前に感想を書いたことがある(→「恩田陸『光の帝国』とゼナ・ヘンダースン<ピープル>シリーズ」)というか、<ピープル>シリーズ以外、この作家の作品読んだ記憶が無いし)。奇想コレクションのオリジナルであるこのゼナ・ヘンダースン作品集には11編の作品が治められているけれども、<ピープル>ものは冒頭の1編のみ。残りは特にどういったシリーズにも属さない独立した短編。<ピープル>のファンとしては未読の作品を楽しめ、おまけにこの作家のシリーズもの以外の側面も知ることができる、なかなかのお買い得短編集、と期待を持って読み始めたのでした。

正直、冒頭に置かれた<ピープル>もの「忘れられないこと」は、う〜〜ん、というところ。そもそも、<ピープル>って、遭難して離ればなれになった異星人たちが社会から隠れて暮らしているシリーズ前半の作品が好み。この作品、同胞が再び集まってコミュニティを再生した後、されに次の世代が育ちつつある時期を描いているのだけど、どうも能天気というか、ファン・サービスみたいなところがあって、今ひとつ乗れなかった。

かと言って、作品集全体に不満かというと、そんなことは無し。これ以外の10編のシリーズ外の作品が、古典的SFからユーモア系・ホラー系とバリエーション豊かで、大変楽しく読ませていただきました。人情系の作家かと思っていたので、不思議=怖い・不安というトーンが色濃かったのが以外。また、<ピープル>シリーズでは効果的に用いられているものの、そればかりだと鼻についてくる宗教(キリスト教)ネタが、他の作品ではあまり表に出てこないところもよかった。

特に印象に残った作品を配置順に書けば次の通り。

  • いちばん近い学校」(三作品目)
    • 女教師一人が退屈を持てあます辺境の学校。入学をもとめて親に連れられてきた新入生は、ヒトとは似ても似つかない姿をしていた……軽いコメディーだけど、堅物だが筋目の通った教育委員会の委員長が楽しい。アメリカ草の根のいいところだけを取り出したような話。
  • 信じる子」(七作品目)
    • これも学校/女教師もの。恵まれない境遇の新入生ディズミーは、人の言うことを信じやすいたち。『オズの魔法使い』について学んだ後、ディズミーは、いたずらをしかけてくる悪ガキどもに思わぬ手段で反撃に出る。コメディーになってもおかしくないネタだけど、ディズミーの境遇に思いを巡らす主人公の女先生の想いが作品に陰影を添える。不幸な家庭環境で暮らす生徒について悩む女教師を描いた「先生、知ってる?」や、物語が持つ魅力とそれが人生に及ぼす力を熱く哀しく描いた表題作「ページをめくれば」と合わせて読むと、さらに味わい深い。
  • グランダー」(九作品目)
    • 妻に対する嫉妬心の激しさに悩む男がキャンプに向かった先で教えられた解決法は、不思議な魚グランダーを捕まえることだった。荒っぽい作品だけど、魔法の魚グランダーの描写が印象的。収録作中唯一、子供が一切出てこない作品でもある。
  • 鏡にて見るごとく - おぼろげに」(十一作品目)
    • 現代の中年女性の幻視に現れる開拓時代の不幸な女の一生。幻視した女性に対してのヒロインの感情移入の深まりが、一気にクライマックスを迎える構成が見事。

どうも、冒頭を除くと前半にはわりと軽めの作品が集められ、作品集の後に進めば進むほど味が濃くなるよう作品が配置されているような印象。

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