メディヘン5

時々書く読書感想blog

浅井ラボ『されど罪人は竜と踊る』

久々の出張帰り、新幹線の中で読むものを探して入った仙台駅の書店でゲット。その時はなんだか、「ストーリーは軽いが、設定は凝りまくり」、というものを読みたい気分だった。そこで、ライトノベルのコーナーに行き、平積みの中から漢字が多い雰囲気のものを購入。タイトルにも作者名にもまったく馴染みがない作品を適当に選んだ割には、好みのものをうまく引き当てた感じ。

されど罪人は竜と踊る
浅井 ラボ〔著〕
角川書店 (2003.2)
ISBN : 4044289018
価格 : ?650
通常2-3日以内に発送します。

■あらすじ

舞台は、魔法が「咒式」と呼ばれる“科学”として体系化された世界。そこはまた、強大な力を振るう竜や異次元から現れる禍つ式といった「異貌のものども」に人類の文明と社会が脅かされる世界でもある。主人公のガユスは、咒式を操り異貌のものどもと戦うフリーの攻性咒式士。咒式剣士である相棒のギギナと共同設立した零細事務所をやりくりしながら、異貌のものどもとの戦いから猫探しまで、咒式で解決可能なあらゆる事件で糊口をしのぐ日々を送る。
 
観光と貿易と外交の都市・エリダナ市に事務所を構えるガユスとギギナは、役所の下請け仕事がきっかけで巨大な竜と戦うハメになり、さらには、国家を揺るがす陰謀に巻き込まれていく・・・・・・
 

■感想

いわゆる「剣と魔法」モノである、この作品、主な魅力は2点。
 
ひとつは、かなり練りこんだと見られる「咒式」の設定。
咒式の特徴は、その効果が、実在の物理的な事象に限られる点にある。たとえば化学系の咒式士であるガユスの攻撃手段は、TNTRDXといった実在の爆薬や化学兵器として用いられるガスの合成と利用、といったものになる。また、相棒ギギナは、自分やパートナーの肉体を強化する生体系咒式士だが、力を強化するにあたっても、筋肉内に必要な物質を合成することによる体内反応の強化・加速で可能な範囲に限られる。このあたり、何の理屈も無く火の玉を呼び出したり、空を飛んだりする“魔法”とは趣が異なる“テクノ・マジック”とされる由縁。とは言え、反応に必要な物質やエネルギーは、どこからともなく生じちゃっているわけだし、重力や空間を操る咒式士も登場しちゃったり、しっかりエンターテイメント。けして、理屈でストーリーのドライブ感を損ねているわけではない。まあ、理屈っぽい描写が描写の厚みを増すと感じられる“設定ファン”に向け、という感じ。次々と登場する咒式や“異貌のもの”はアイデア満載で、ワイドスクリーンバロック的な雰囲気すらある。
 
この作品のもう一つの魅力は、登場人物たちのセリフ。
主人公ガユスと相棒ギギナの会話は八割方、悪口と言い争いで構成されているし、他のキャラクターとのやり取りも軽口や皮肉のオンパレード。主人公ガユスは、咒式専門のエリート大学(?)を中退後フリーの攻性咒式士になって5年目の20台前半、という設定らしいが、結構ナイーブな心うちを隠し、機転を利かせた(つもりの)軽口と皮肉を連発するあたりが、傷心の秀才という感じでなんとも青春路線。それに付き合うギギナは、闘争と狩りに生きるドラッケン族という戦闘種族と人間の混血という設定。類いまれな美男で、家具に名前を付けて愛でる変人であり、ガユスに匹敵する悪さの性格を持つ。この二人が、角突合せながら強敵に対していくわけだが、そのやり取りとチームワークが楽しい。男二人の「剣と魔法」モノ、ということでフリッツ・ライバーの<ファファード&グレイマウザー>を思い出してしまったりした。(軽口の連発からすると、アメリカのTVドラマ・シリーズの方が近いのかも。<ジョン&パンチ>とか<スタスキー&ハッチ>とか。ってふるいのばっか)
 
<され竜>と略されるらしい、このシリーズ、現在、第4巻『くちづけでは長く、愛には短すぎて』まで刊行。第4巻は上下巻の上巻ということなので、3巻目まで読んだところ。5巻が出たら4巻と併せて買うつもりだが、待ち遠しい。

■関連リンク

ASAI-Laboratory
浅井ラボファンクラブ。読者から浅井ラボへの質問コーナー、<され竜>ウラ設定などを掲載。