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時々書く読書感想blog

オースン・スコット・カード『シャドウ・オブ・ヘゲモン』 <エンダー>シリーズ第6作

銀河英雄伝説』のファンなら、乱世における天才的な軍略家や政略家の活躍を描いた物語のおもしろさをよくご存知だろう。この物語は、未来の地球における天才的戦略家同士の知能戦・心理戦を主題にしており、その駆け引きをたっぷり味わえる。(ただし、宇宙艦隊は「戦略的に」封じ込められているため、銀英伝のような宇宙戦闘は出てこない)
 
...あれ、そんな話なの?と思ったO.S.カード/エンダー・ファンの方。今回は戦略家の駆け引きがストーリーの主旋律となっていますが、全体をドライブするリズムとして、人間性への洞察に溢れるカード節は本作でも絶好調ですので、ご安心を。



■あらすじ

本書は、『エンダーズ・シャドウ』の続編であり、<エンダー>ものの第6作にあたる。
”エンダー”とは、傑作『エンダーのゲーム』において、異星人の侵略から地球を守った少年エンダー・ウィッギンのこと。エンダー自身の物語については、その後、正編シリーズとして計4作が執筆されている。一方、『エンダーズ・シャドウ』と『シャドウ・オブ・ヘゲモン』は、エンダーと共に彼の部下として地球を守る戦いを指揮した11人の少年・少女たちの中で、もっとも優秀だったビーン少年が主人公。
 
前作は、エンダーとエンダーの戦いをビーンの視点から描いたものだったが、今回は、異星人との戦いの後、ビーンと彼の仇敵となった少年の地球をチェス盤とした戦いを描く。タイトルの”ヘゲモン”は、作品世界において、地球を統べる統治者を意味する。だが、ビーン自身が統治者=ヘゲモンとなるわけではなく、エンダー・ファンにはおなじみの人物がヘゲモンとなることをビーンが助けるストーリーから”シャドウ”がつく。

■感想&評価

カードという作家は、とにかくストーリー作りがうまくて、今回も上下分冊の長編をまったく飽きさせない。それでいて、ストーリーの端々には、人間性や倫理性、正義といったものに関する作者独自の価値観がうかがわれ、エンターテイメント性と文学性を両立させている。とは言え、今回の作品は、やはり傑作の続編ということで、オリジナリティの点で見劣りがするのは確か。おまけに、ビーンと彼の仇敵の戦いには決着がついておらず、さらに続作へ持ち越しとなっている点にも欲求不満がたまる。
 
ところで、『エンダーのゲーム』(1987)において、エンダーは第3子という意味で「サード」と呼ばれていたということになっているが、これは、やっぱり、エヴァンゲリオン碇シンジ君が「サード・チルドレン」であることと関係があるのだろうか?...と思ったら、大森望&水玉雪之丞両氏を始め、同じこと書いてる人、いっぱいいますね。