メディヘン5

時々書く読書感想blog

トマス・ウォートン『サラマンダー 無限の書』

本屋をフラフラと散策中、“『SFが読みたい!2004年版』が選ぶ 本年度ベストSF 海外編”なる帯の惹句が眼に入り、見事に引っかかって購入。

サラマンダー
サラマンダー
posted with 簡単リンクくん at 2006. 7.25
トマス・ウォートン著 / 宇佐川 晶子訳
早川書房 (2003.8)
通常2-3日以内に発送します。

■あらすじ

18世紀ロンドンの印刷職人フラッドは、とある東欧の伯爵家に招かれ、「無限の本」の制作を依頼される。固定された部屋が存在しないという伯爵の奇妙な居城で作業を開始したフラッドは、伯爵の令嬢イレーナと恋に落ち、伯爵の逆鱗に触れて城の奥底で幽閉の身へと。イレーナの産んだ娘パイカに助け出されたフラッドは、イレーナと無限の本を求める旅を始める……

■感想

なにせ、「無限の本」などという、どういうものであるかもはっきりしないが妙に魅力的(に思える)、という書物を探求する物語なので、ストーリー展開、登場人物、舞台のいずれも一筋縄ではいかない。
 
どうも、作者は、この作品自体も「無限の書」とすべく、各エピソードの舞台や小道具に「限りが無い」という特性を持たせようとしたらしい。
 
たとえば、その奇抜さが魅力的な伯爵の居城。この城は、固定された部屋を持たない、つまり巨大なカラクリで内部構造が常に変化するという作りになっているのだが、これはつまり、城の全てを探索することが不可能な無限の城であるということ。同じように、フラッドが旅する世界の各地や、冒険の鍵を握るアイテムは、それぞれ固有の「限りの無さ」を持たされているようだ。
 
舞台の「限りの無さ」を見透かそうとするのに疲れて、ストーリーのデテールが妙に頭に入りずらかった。また、脇役も含めた登場人物も、やはりそれぞれ、ある意味での「限りの無さ」を象徴しているように思えるのだが……とても、とても一度読んだだけでは、歯が立たない感じ。時間のある時に再読、かな。