メディヘン5

時々書く読書感想blog

W. H. ハドソン『ラ・プラタの博物学者』

中学生か高校生のころ読んで、ずっと本棚に並べていた本。
本棚を眺めているうちに、突然思い立って、約20年ぶりに再読。

ラ・プラタの博物学者
ハドソン著 / 岩田 良吉訳
岩波書店 (1979)
ISBN :
価格 : ¥683
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19世紀後半のこと、米国人の両親を持ち、アルゼンチンで生まれ育ったW. H. ハドソンは博物学を志して渡英。苦労のあげく、故郷アルゼンチンの広大な草原地帯パンパスに棲息するさまざま生き物の生態を描いた本書『ラ・プラタの博物学者』により、野外博物学者としての地歩を築いた。

本書の内容だが、ハチ・カ・クモといった昆虫のたぐいから、さまざまな種類を誇る鳥類、種類は多くないものの素朴な生態が興味深い哺乳類まで、多様なパンパスの生物の生態が、ハドソンの体験と実際の観察にもとづいて述べられている。その筆致は、観察対象の生き物に対する愛情に満ちている。これは、英国の読者から見てマイナーな地方であるアルゼンチン・パンパスの自然を擁護、アピールしようとする著者ハドソンの姿勢の表れかもしれない。しかし、ハドソンの筆致は「博物学者」にふさわしい抑制された穏やかなものであり、過度に自分の出身地の美点を誇るどぎつさはまったく感じられない。まさに、原題のnaturalistという言葉は、こういう人にふさわしいのだろうなぁ、と思わせられるようなところがある。

さて、パンパスあるいはパンパ、と言われて、とっさに位置や特徴について説明できる人は多くはないだろう。在アルゼンチン日本大使館HP によると、「アルゼンチンは大きく西部(アンデス地方)、北部、中央部(パンパ)及び南部(パタゴニア地方)の4地方に分けられ」「中央部のパンパは何時間車で走っても景色の変わらない大平原であり、農業国アルゼンチンの富の源泉である。」とのこと。

著者ハドソンは、パンパスが開拓され“農業国アルゼンチンの富の源泉”になろうとしていく時代に、青春期をこの地方で送った人ということになるのだろう。本書の中でも、開拓によって失われていくパンパスの自然を惜しむ想いについては一方ならぬものが感じられる。とは言え、ハドソンが失われ行く自然に慨嘆を示したのも、19世紀末、100年以上前のこと。100年前にすでに、自然そのままの美しさが失われていたというなら、現代のわれわれが見逃したものはなんと大きいのかと救われない気分にもなる。

おまけに、この岩波文庫版自体が絶版ときたもんだ。これからこの本を読んでみたいという方は、下の講談社学術文庫版をどうぞ。

ラ・プラタの博物学者
W・H・ハドソン〔著〕 / 長沢 純夫訳 / 大曾根 静香訳
講談社 (1998.12)
ISBN : 4061593560
価格 : ¥1,365
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