メディヘン5

時々書く読書感想blog

恩田陸『光の帝国』とゼナ・ヘンダースン<ピープル>シリーズ

ゼナ・ヘンダースンの<ピープル>シリーズはわりと好きなほうなので、同シリーズにインスパイアされて書かれたという『光の帝国 常野物語』を読むのを楽しみにしておりました。

光の帝国
光の帝国
posted with 簡単リンクくん at 2006.11.22
恩田 陸著
集英社 (2000.9)
ISBN : 4087472426
価格 : 520
通常24時間以内に発送します。

果しなき旅路
果しなき旅路
posted with 簡単リンクくん at 2006.11.22
ゼナ・ヘンダースン
/ 深町真理子
早川書房 (1978.7)
ISBN : 4150103003
価格 : 861
通常2-3日以内に発送します。


■感想

当たり前の話ですが、読んでみると『光の帝国』の“常野の人々”と<ピープル>シリーズの登場人物たちはかなり違う。

ヘンダースンの<ピープル>は、宇宙船の故障で遭難した異星の人々が、アメリカのごく普通の、ただし辺境に半ば孤立した村々を装って暮らしているという設定。シリーズを構成する短編の多くは、故郷への帰還を渇望しつつ静かに暮らす<ピープル>が傷ついた人々を受け入れて癒し、また逆に、そうした人々を受け入れることにより、受け入れた側もが癒される、という、優しさが魅力的なストーリーです。

<ピープル>たちは、さまざまな超能力を持っており、それがゆえに普通の社会と可能な限り交わらずに生きています。このため、閉鎖された村での暮らしに飽いて外の社会との交流を望む若者たちと、それを諌める大人たちの葛藤がストーリーを彩ったりもします。しかし、いずれにせよ、普通の社会と<ピープル>の村々はよい意味でも悪い意味でも関わりが薄く、<ピープル>たちのコミュニティはかなり閉鎖的。その閉鎖性自体がストーリーを動かしているところもあり、「彼(ら)と我(ら)の断絶」は確かにある、とした上で、その克服をテーマの一つに据えるという、なんと言うか非常に西洋文化的な物語だという印象をもっています。

一方、『光の帝国』の“常野の人々”は、常に野にあると言うぐらいで、普通の市井に溶け込んで暮らしているわけです。けれども、彼らはその常ならぬ能力を押さえ込んで逼塞しているというわけでもありません。<常野物語>というシリーズの第一作目であるこの短編集では背景の多くは明らかになってはいませんが、“常野の人々”には常人の社会の中で彼らの得意な能力を活かしてやる事もあるようだし、その社会を舞台に戦うべき超常の敵とおぼしき存在もいるらしい。

このように社会に溶け込んでいる“常野の人々”ですが、かつては<ピープル>のように山の中で孤立したコミュニティを営んでいたことを伺わせる短編もあるわけで、それがどのような経緯で世に混じるようになったのか。常ならぬ人々が世に出れば、表題作「光の帝国」で描かれているように、常人との断絶が悲劇を生むというのが普通。しかし、その「光の帝国」から「国道を降りて…」へのつながりのように、断絶と融和を通り一遍に書く恩田陸でもないでしょうから、“常野の人々”が世に出て社会の断絶とどう向きあったのか、後の<常野物語>でどう語られるのか楽しみです。

ところで、この二作を並べてみて感じたのが、ヘンダースンの情景描写のうまさ。『果しなき旅路』では、アメリカの辺境の荒々しくも美しい風景が随所に登場したのを思い出しました。一方、『光の帝国』では、常ならぬ人々が視る不思議な世界の描写が秀逸。「黒い塔」とか、ゾクゾクしました。

■関連リンク

- 光の帝国―常野物語@恩田陸を読む
恩田陸作品のレビュー/トラックバック集。