チャールズ・ストロス『アイアン・サンライズ』今度は爆弾だ!
ハヤカワ文庫SF、2006年12月の新刊。イーガン『ひとりっ子』と同時刊行とは、この年の瀬にうれしい悲鳴、というのはオーバーか。どちらを先に読むか迷ったが、何も考えずに楽しめそうな(笑)こちらを先に読むことにした。
■感想
「空から携帯電話の雨が降ってくる」という突拍子もない出だしで始まった『シンギュラリティ・スカイ』の続編。
この著者、タイトルに絡めたネタを冒頭でかますポリシーなのか、今回の『アイアン・サンライズ』では、いきなり“鉄爆弾”が炸裂、恒星がぶっ飛んで新星化するという派手なオープニング。(“鉄爆弾”とは何か、については著者の思い入れが感じられるネタでもあり、作品を読んでみてください)
ストーリーの骨格は、鉄爆弾にまつわる陰謀の鍵を握ることとなった少女を巡り、善玉である国連のエージェントと悪玉である謎の全体主義集団が争うというもので、ほとんど冷戦時代のスパイ・アクションのノリ。
善玉側の主役は、前作でカップルとなった、国連の“因果律破壊兵器”拡散防止機関<ブラック・チェンバー>の秘密捜査官レイチェルと、超AIエシャトンのためにアルバイトもする造船技師マーティンのおしどりスパイ夫婦。
この二人が登場するので、前作の続きということになるものの、内容的には前作を引きずるところはほとんどありません。超AIエシャトン誕生により強制的に恒星間社会となってしまった世界設定も、前作より詳しく説明されるくらいなので、本作のみでも十分楽しめます。
一方、前作に登場した“フェスティバル”のような突拍子もない超技術の産物が登場しないため、007かミッション・インポッシブルか、という普通のハイテク・スパイ・サスペンスっぽくなってしまっていてちょっと寂しい。
無茶苦茶さ方面については、邪魔と思った相手を即座にゾンビ化してしまう悪役<リマスタード>の強引さ加減と、過剰なまでのステロタイプさが突き抜けていて、今後の作品につながるような引きもあり、先々に期待というところ。
個人的には、重要な舞台となる超光速豪華客船ロマノフ号の描写がそれらしくて楽しめました。前作でも、宇宙船関係の描写はなかなか手が込んでいたし・・・・・・
前作『シンギュラリティ・スカイ』は“ニュー・スペース・オペラ”として紹介されていたけれども、本作は大分“ニュー”な成分を減らしている印象で、普通のスペオペが好きな人にも楽しめるかと。