桜坂洋『All You Need Is Kill』
桜坂洋という人、2,3年前に読んだ『スラムオンライン』(→感想)を気に入って、他の作品も読みたいもんだと思っていたのだけど、売れ筋らしい<よくわかる現代魔法>シリーズはちょっと表紙が……ということで機会がなかった。そうこうするうち、『SFが読みたい!2008年版』の中の「SF最新スタンダード200」の“現実と虚構・仮想テーマ”の項に本書がとりあげられているのに気づいて、読んでみることにした次第。
All You Need Is Kill (スーパーダッシュ文庫)
- 作者: 桜坂洋,安倍吉俊
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2004/12/18
- メディア: 文庫
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“潰れたカエルのような形だが実はヒトデに近い”という謎の侵略者に対し、人類が総力をあげた防衛戦争を繰り広げている世界。主人公のケイジは、強化服をまとって敵と直面する歩兵部隊の新兵。初陣の戦いの中で重傷を負ったケイジが目覚めると、世界は初陣の日の前日に巻き戻っていた。初陣の日を繰り返すループにはまったことを理解したケイジは、戦闘の繰り返しの中で戦い方を学び、最強の兵士を目指す。そんな繰り返しの中の戦場の中で、ケイジは最強の戦士とされる女兵士と出会う……
ようするに、ゲームオーバーを繰り返しながらゲームに強くなっていくという行為のそのもので、感覚的に妙にしっくりくるところが不思議。『スラムオンライン』では対戦格闘ゲームを正面から扱っていたけれども、本作はちょっと捻ったFPSというところか。
ゲーム・キャラクター=小説の登場人物というだけなら、ゲームのノベライゼーション小説でも同じわけだけど、この二者に加えゲームのプレイヤーが強く融合しているところが桜坂洋の独特なところだろう。本作では、「時間が繰り返す」という単純な設定を持ち込むだけで、主人公が無限に戦闘を繰り返す(させられる)ゲーム・キャラクター化するとともに、そのゲームを繰り返しプレイするプレイヤーへと一気に融合するところが素晴らしい。
また、その「時間が繰り返す」というところの理屈が見事にSFな設定となっていて、しかもストーリーの中核に組み込まれているところもお見事でした。