メディヘン5

時々書く読書感想blog

ジョージ・オーウェル『カタロニア讃歌』 オーウェル、33歳の冬。


■内容&感想

1984』と『動物農場』で有名なジョージ・オーウェルのスペイン戦争従軍記。

本のタイトルになっている「カタロニア」は、スペインの北東部、バルセロナを中心とした地域の名称で、スペイン語では「カタルーニャ」というらしい。オーウェルは、より熾烈な戦いの場だった首都マドリードに行きたかったようだが、都合がつかず、バルセロナで戦争に参加することになったとのこと。バルセロナの住民はともかく、町自体はあまり気に入らなかったらしく、例の有名な大聖堂についても冷たい言葉を残しております。まあ、私もオリンピックが開催される前は、どこにあるのか地図で示せないような状態でしたが。
 
一方、スペイン戦争。第2次世界大戦の直前、ファシストフランコ将軍が起こしたスペインでの内戦を指します。ナチス・ドイツフランコ将軍を支援したため、対抗する民主政府側に各国の支援が集まり、オーウェル義勇兵として参戦した...ということであれば単純ですが、そうは問屋がおろさない。ここに共産主義という、ファシズムと並ぶ20世紀の妖怪が絡みます。
 
フランコ将軍の反乱は、共産主義社会主義者アナーキストが集まった人民戦線の政権奪取を契機としたもので、左翼運動の拡大を恐れた欧州列強諸国政府はどちらかというと、フランコ将軍寄り。一方、左翼側も一枚岩では無く、各種派閥の連合体とソ連に支援された共産党に分裂。「支配」や「体制」というものが大嫌いなオーウェルは、左翼連合陣営の軍隊に参加したのです。
 
結局、一番まとまりの弱い左翼連合は、共産党勢力に追い落とされてしまい、オーウェルも追放同然にスペインを離れることとなったのですが、この体験がファシストのみならず(当時スターリンに率いられていた)ソ連の独裁体制に疑問を抱かせることとなり、『動物農場』『1984』へと繋がっていったとのこと。
 
内容がきわめて地味(オーウェルの参加した戦線は情けないくらい動きが無かった)な一方、33歳のオーウェルの熱い義憤についていけないところも多々あり。そんな、この本が文庫化までされ、未だに書店に並んでいるのは、本書が「自らの体験に基づいて書く」という現代記録文学の源流となっている、ということもあるとのこと。