メディヘン5

時々書く読書感想blog

野尻抱介 『フェイダーリンクの鯨』

クレギオン>シリーズ第2作、ハヤカワ文庫より順調に刊行されました。

フェイダーリンクの鯨
野尻 抱介著
早川書房 (2004.1)
ISBN : 4150307466
価格 : ?672
通常2-3日以内に発送します。

■あらすじ

前作『ヴェイスの盲点』で新人社員メイを獲得したミリガン運輸だが、余計なトラブルに巻き込まれるのは、相変わらず。今回は、過去のトラブル相手から追われて逃げ込んだ土星型惑星フェイダーリンクのリングで、氷を採って自給自足の生活を営むレーネ村の人々に助けられる。土星同様のガス状巨大惑星であるフェイダーリンクでは、おりしも、太陽化計画が進行中。フェイダーリンクが太陽化すれば、氷で出来たリングは消えてしまう。ミリガン運輸の面々は、レーネ村の村人たちの反対運動に協力して一肌脱ぐことに・・・・・・

■感想

今回の話の醍醐味は、著者の「ハード」な部分に裏打ちされたレーネ村の設定。
 
土星と同じような見事な「輪っか」を持つフェイダーリンクの、その輪っかの中にある村、という設定なのですが、ネーミングから伺えるように、アルプス山中の鄙びた山村を思わせるような味付けがなされています。たとえばネタを一つ明かしてしまうと、リングの輪のそれぞれを「丘」、リング間の間隙を「谷」と呼ぶのが村の習慣というあたり。村のある間隙が“チェスター渓谷”、内側のリングが“ラムジー丘陵”という具合なのですが、Aリング、Bリングなどと呼ぶのに比べ、のどかというか、生活感が感じられるというか、なかなかいい雰囲気でした。
 
こうした工夫に、アルプスに対応したリングの偉景の描写が加わって、まさに、美しいアルプスの村と村人の牧歌的な暮らしが開発で失われようとしている、という感じが出ており、SF小説ネタとしては上滑りしがちな環境保護というネタに厚みが加わっていると思います。
 
一方、なかなかに渋いミリガン運輸の面々も健在。太陽化という夢にも共感しつつ、レーネ村への肩入れを決める社長ロイド。船長役(パイロットから出世?)として腕を振るうマージ。新人メイも甘酸っぱいロマンスで盛り上がります。
 
ガス惑星に鯨とくれば、SFファンにはピンと来る「アレ」の扱いについても一捻りあります。その中味については、読んでからのお楽しみ、ということで・・・・・・