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伊東岳彦『宇宙英雄物語 ディレクターズ・カット』 燃える!!

マンガで“燃える!”と言うと島本和彦、という印象があります。しかし、さらにマイナー分野であるSFコミックで“燃える!”と言えば、伊東岳彦の『宇宙英雄物語』ではないでしょうか。この『宇宙英雄物語』の決定版が出るというので、早速購入開始。11月から順次購入し、先日、最終5巻を無事に入手しました。

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宇宙英雄物語(ホーム社漫画文庫)

■あらすじ
太陽系をまたにかけ、数々の陰謀や脅威から惑星間の平和を守ってきた宇宙英雄、キャプテン・ロジャー・フォーチュンことロジャー・A・グリフィス。1945年12月8日、彼と宿敵・星海王ブラスの対決は、クライマックスを迎えようとしていた。ブラスが、火星古王朝最大の神秘・秘星球の秘密を狙い、鍵を握る火星王家のステラ王女を誘拐したのだ! ステラ王女を人質にとられたロジャーは、王女奪還を目前としながら、ブラスと彼を守る12神官の手により、異世界へと放逐されてしまう・・・・・・
 
この物語は主人公は、ロジャーの孫にして、恒星高への転校生である護堂十字。転校早々、十字は、恒星高の校庭に、祖父の愛艇、太陽系最高の宇宙船“星詠み号”が隠されていることを知り、宇宙をめざす。ヒロイン咲美をはじめ、恒星高の面々は、行動力と思い込みだけはヒーロー級の十字の暴走に巻き込まれてテンヤワンヤのお祭り状態。おまけに、十字のライバルに名乗りをあげる悪の天才教師・紅竜やら、古の魔法使い一族の末裔・アゼル、外宇宙のアンドロイド・ゴートらが絡んで、もうメチャクチャ。十字は、宇宙に旅立つことができるのだろうか!?そして、「もう一つの太陽系」を揺るがす秘星球の秘密とは!?

■感想

太陽系狭しと飛び回る、涙滴型宇宙船。敵を蹴散らすヒーローと彼に従う異形の仲間たち・・・キャプテン・フューチャー、すなわち古典的スペース・オペラを明白に意識しながら、精霊・魔法といったRPGや近年のファンタジーの新しい要素を盛り込んで、個性的な舞台とストーリーを展開しているところが本作品の魅力です。もちろん、ひねくれ美少女から熱いオヤジまで、ついつい愛着が沸いてしまう多数の個性的キャラクターの存在も。
 
しかも、文庫版で5巻という長丁場、地球から火星、金星、さらには小惑星帯から太陽系の果てにまで広がる複雑な展開であるのに、プロローグから結末まで、全体のストーリーがキッチリ完結している構成がすばらしい。(途中、寄り道も多いですが)
 
精霊や魔法が駆使されるスペース・オペラ、というスタイルは、作者のデビュー作「グッドモーニング、アルテア」から本作を経て、『OUTLAW STAR』へと引き継がれたわけです。『OUTLAW STAR』の刊行は2巻で止まっていますが、こちらの続刊も期待したいものです。

さて、このシリーズ、ストーリーの基本的なタネは、ありがちと言えばありがちなのですが、5巻に渡って積み重ねた物語世界の厚みがシラケさせません。また、書き直し・おまけ多数のこのディレクターズカット、個性派解説陣(介錯堺三保萩原一至→唯 登詩樹→上遠野浩平)の解説も魅力的。特に、“BASTRAD!“萩原一至による伊東テク解説と、物語のラストにぴったりの余韻を加える“ブギーポップ上遠野浩平の解説は秀逸でした。

■関連リンク
- SFマンガ道 第三回「伊東岳彦」篇@(今は亡き)SFオンライン
水玉螢之丞氏による、伊東岳彦インタビュー。
時期はアニメ版『アウトロースター』放映開始直前。