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時々書く読書感想blog

中村良夫『風景学入門』 良い風景とは?

ネットワークやITが極限まで進む時の方向性の一つには、物理的な世界との融合があるのではないか・・・・・・というぼんやりしたイメージから、最近、都市・環境・設計といったものに漠然とした興味が出てきている。本書もそうした興味から、なんとなく購入したもの。

風景学入門
風景学入門
posted with 簡単リンクくん at 2006. 7.30
中村 良夫著
中央公論新社 (1999.5)
ISBN : 412100650X
価格 : ?756
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■内容

「風景」とは何か、何をもって人は「風景」の良し悪しを言うのか。土木・建築系のテーマである景観工学の草分けが、その工学的検討のバックボーンとなるべき思想を確立するための試みの一つとして、古今の「風景体験」を整理し、体系化したもの。
 
前半では、風景というものの一般的意味あいを、人間の視覚特性や、理想郷の描写に代表される古典的景観描写から整理。後半では、景観に言及する古今の著作や風景画の分析から、風景の良し悪しの観点を体系的に説明している。

■感想

過去や現在の生活の中でお気に入りになっている風景というものは、誰しも一つ二つあるだろう。そうした「お気に入りの風景」の良さをうまく表現できず、もどかしい思いをしたことのある人に、最適の1冊。
 
風景というものが、特定の建物やランドマークのデザインによって決まるものではないことを人間の視覚特性から明らかにしてくれる部分(第1章「目と風景」)や、自己と他者の関係の認識に基づいて風景が認識されているというあたり(第6章「境と心」)には、なるほどと膝を打つ思いがした。
 
一方、「効用」がむき出しで見えるということの下品さを、「茶」の世界に代表される日本の古典的な美意識感から解き明かしていく点については、刺激や機能美というものを重んじる立場からは違和感があるかもしれない。でも、自分に正直になれば、やはり、「渋い」風景の方が飽きがこないというものかな・・・・・
 
風景全体を一からデザインし直すことができるのであれば、本書が試みた風景論の体系化はきわめて有用だろう。しかし、風景を構成する個々の建物や土地がバラバラにデザインされている現在、どうやって全体の見た目をよくしていけばいいのか、という難題に答えてくれる応用編が読みたくなった。
 
とりとめのない「風景」というものについて、広汎な出典から引いた具体例に基づいて、地に足のついた議論を展開してくれ、最後には自分には思いもつかなかった見方を教えてくれる。「入門書」というものの鑑という感じ。