メディヘン5

時々書く読書感想blog

菅 浩江『永遠の森 博物館惑星』

菅浩江という方は、お名前だけは昔から意識してはいたものの女流作家を敬遠していたこともあって、これまであまり作品に触れたことがありませんでした。はっきり言って不覚。食わず嫌いは損のもと、という典型でした。

永遠の森
永遠の森
posted with 簡単リンクくん at 2006. 7.29
菅 浩江著
早川書房 (2004.3)
ISBN : 4150307539
価格 : ?798
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■あらすじ

ラグランジュ点に運ばれたオーストラリア大陸サイズの小惑星を丸ごと博物館に充てた「アフロディーテ」。この巨大博物館苑を舞台に、脳内インタフェースで繋がれた巨大データベース「ムネーモシュネー(記憶の女神)」をパートナーとして展示部門間の調整役を勤める中央管理部門の学芸員・田代孝弘が遭遇するさまざまな事件やトラブルを描く短編連作集。

■感想

丸ごとが博物館として捧げられた小惑星にして都市『アフロディーテ』。物語の舞台としては、極めつけのアイデアのひとつでしょう。ロマンスからミステリー、はたまた純粋SFまで何でもござれ。視点を都市/博物館自体に据え、同名の海上都市の物語(山田正紀アフロディーテ』)のように、都市自体の栄枯盛衰を描いても魅力的かもしれないし、いかにも迷宮になりそうなあたりに焦点をあててもいいかもしれない。
 
ところが、この作品においては巨大博物館苑という舞台はあくまで背景にすぎず、理想の博物館をあずかる者はアートに対してどう接するべきか、という点に対する主張が、連作を通して語られていきます。
 
巨大博物館苑という魅力的な舞台仕掛けをもう少し派手に使ってもいいんじゃないかな、という感想も持ちました。ただ、連作全体を使って構成されたストーリー展開が見事で、クライマックスである最終編では、すっかり作品世界に引き込まれてしまいました。その構成はお見事。最終話ラストまで読み終わってから第1話を読み直したところ、第1話で主人公が行った判断に対する感想がまったく変わり、同じ作品をもう一度、まったく別の感覚で楽しめたほどです。
 
ちょっと甘味が強すぎるかなぁ、というところもあり。舞台を活かした派手さももうちょっと欲しかったなぁ、というところもあり。しかし、全体を読み終わって得られた穏やかな満足感は○。