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時々書く読書感想blog

佐藤大輔『皇国の守護者8 楽園の凶器』 祝!30ヶ月ぶりの新巻

前巻の発売から、はや30ヶ月。第1巻が発売された1998年6月から勘定すると、平均、約8ヶ月半ごとに次の巻が出ていることになる。遅筆をもってなる作者だが、今回は待ちくたびれたのであった。もう出ないのかと思ってましたよ。トホホホホ。

皇国の守護者 8
佐藤 大輔著
中央公論新社 (2004.3)
ISBN : 4125008027
価格 : ?945
通常2-3日以内に発送します。

■あらすじ

仮想戦記のスタイルを借りて近現代日本の再創造を図る、著者お得意パターンのスチームパンク/ファンタジー版。
<光帯>と呼ばれるリングを持った、とある惑星に広がる<大協約世界>。そこでは、通常人類に加え、両性具有人や超能力者、そして竜族が共存しながら、我々の世界の産業革命期に相当する社会を構成していた。そして、<大協約世界>の過半を支配する巨大陸軍国家<帝国>が次なる矛先を向けた相手は、大陸東方の島国<皇国>。圧倒的な戦力で襲来した帝国軍の前に、封建制を色濃く遺す皇国軍はなす術も無い。巨大な敵にかろうじて一矢を報いたのは、平民出身の一陸軍大尉・新城直衛のみだった。
 
1巻以来、圧倒的な帝国軍に対し壮絶な撤退戦・防衛戦を繰り広げ、皇国軍立て直しの猶予を稼ぎだした新城直衛が8巻で立ち向かうのは、祖国を売り渡しても生き残りを図ろうとする守原家のクーデター。なんと5巻冒頭で既に描写済みの“凱旋式”翌日、冬の帝都の早朝を震撼させて始まったクーデターに対し、新城の反撃が開始される……はずなのだが、8巻ではクーデターの初動までで、まだ反撃は始まりません(ToT)。

■感想

ドイツ+ロシアという趣きの<帝国>(というか、『銀河英雄伝説』の“帝国”のパロディなのか?)に対し、<皇国>はもちろん日本。時代の描写から言って、明治期というところ。ストーリー自体は仮想戦記=完全な戦争物です。しかし、著者特有の、細部まで設定された社会の緻密な描写が、あったかもしれないもう一つの日本史を描いた、一種の文明批評ともいうべき厚みを物語に与えています。
 
この緻密な社会描写に加え、迫真の戦闘シーンや竜が飛び美女が涙するエンターテインメント、さらには「人間性の対極を弄ぶ」とされる根暗主人公の感情描写などがテンコ盛りだから、たまらない。話が全然進みません。いや、ストーリーは、雄大な構想(たぶん)に基づいて進んではいるのですが、出版ペースも相まって、続きを楽しみに待っている読者の立場からすると待ちくたびれることおびただしい、という作品です。

待ちくたびれた、と書いてはみたものの、この物語のおもしろさにはまっているのは確か。これまでの巻が出たときと同様、今回も1巻から改めて読み直してしまいました。