コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』 猫と恋とタイムパラドックス
犬は勘定に入れません
posted with 簡単リンクくん at 2006. 7.28
■あらすじ
オックスフォード大学で、「タイムパラドックスが生じない仕組みのタイムトラベル」が実用化された未来のイギリスが舞台。タイムパラドックスが生じない、という意味は、歴史上重要な出来事があった時点にタイムトラベルが出来ない上、過去の時代の物品や生物を現代に持ち帰ることができない、という仕組みになっているということで、これでは折角のタイムトラベルも持ち腐れ。利用用途は史学部による歴史研究に限られている。
主人公のネッド・ヘンリーは、そのオックスフォード大史学部の学生。彼が現在携わるプロジェクトは、史学部全体を巻き込んだ再建計画が進むコヴェントリー大聖堂に関する資料収集。中でも、第二次大戦の空襲後に消失した「主教の鳥株」の行方探しに追いまくられる日々。再建計画の発案者にして推進者のレイディ・シュラプネルに尻を叩かれたネッドは、過労とタイムトラベルの副作用でフラフラになり、史学部のダンワージー教授により19世紀ヴィクトリア朝に送り込まれる。ダンワージー教授は、「平和なヴィクトリア朝でノンビリしてこい」というのだが、一方で、ネッドに果たしてもらいたい役目がある様子。わけもわからないまま、ヴィクトリア朝で成り行きまかせの川下りを始めたネッドだったが、事情がわかってくるにつれ、自分がとんでもないミスを起こしたのではないかと不安になり始めるのだった……
■感想
・「犬は勘定に入れません」というけど、端々に出てくる猫はどうなるの?
・主人公ネッドとヒロインのヴェリティの間はもちろん、幾組も登場するカップルの行く末は?
・結局、タイムパラドックスは起きるの、起きないの? 起きないなら、どういう形で歴史に整合がとれるの?
・そもそも話の発端のコベントリー大聖堂再建計画って、なんで始まったの?
どうやら複雑系っぽい挙動を示すらしいタイムトラベル保護機構により、登場人物が何をやっても思ったようにいかないというSF的なストーリーライン上のドタバタに、同じく思い通り通りにならないことでは同様な、猫と恋という2大トラブル・メーカーが輪をかけるので、話はどんどん、ややこしくなっていく。「パターンからこうなるはずだよなぁ」というオチは想像付くのだが、絡み合ったほつれをどうやってほどいて、そこまで持って行くのかがよくわからない……
ややこしく絡みあったそれら全てが一気に解決するラストは、まさに大団円そのもの。主人公と同様、混乱の極みに達した頭をすっかり爽やかな気分にさせてもらいました。
ストーリーにも凝っていながら、デテールの描き込みもお見事。時々、SF読んでてよかったぁ、と思える本に巡り合うが、本書はまさにそれ。
■関連リンク
- 大森望氏によるコニー・ウィリス日本語サイト・神は勘定に入れません