メディヘン5

時々書く読書感想blog

ケン・マクラウド『ニュートンズ・ウェイク』 シニカルお笑いスペオペ

『カズムシティ』の分厚さにさすがに食傷気味。SF読むのは間をとろうかと思ったのだけれども、買ってあった本書をここで放っておいたら、買ったこと自体忘れてしまいそうだったので、一気に読んでしまうことにした。結果、大正解。『カズムシティ』より、よっぽど楽しい本でした。

他の人の感想を見ると、結構辛い点をつけている人が多いみたいですが、自分の場合、ツボにはまりまくり。

ニュートンズ・ウェイク
ケン・マクラウド著 / 嶋田 洋一訳
早川書房 (2006.8)
ISBN : 4150115753
価格 : ¥966
通常24時間以内に発送します。


■あらすじ

軍事AIが勝手に超進化して、人類文明が宇宙に離散(“シンギュラリティ・スカイ”と同じ)してから300年後の世界。人類は、いくつかの陣営に分かれて角突きあいつつ、超AIから獲得したFTLやナノテクなどの超技術を利用して、それなりに繁栄中(ここらへんも(“シンギュラリティ・スカイ”と同じ)。

惑星間を結ぶワームホールを支配するカーライル家の娘ルシンダは、新たに発見された惑星エウリュディケで、誤って未知の超AI戦闘マシン群を起動してしまう。さらに、その惑星が、300年間他の文明圏から孤立しつつ、独自に発展をとげた人々が暮らす惑星であったことから、事態はややこしいまでに複雑化していく……

ちなみに、目次を開くと、「A面」10章+「B面」10章にエピローグとして「終曲」、と昔のアルバムみたいな構成。

■感想

『シンギュラリティ・スカイ』、『カズムシティ』と読んできて、今年のハヤカワSF文庫のイベントらしい“英国発のニュー・スペース・オペラ”って、なんとなく堅苦しいというか重苦しいというかという雰囲気だなぁ、と肩が凝る気分だったのが、本作ですっかり解消。

この作品、出だしはどこにでもあるスペオペ風。ルシンダが戦闘マシンを起動してしまった後、エウ リュディケ人に出会って事情を説明するあたりから、だんだんと妙な雰囲気が醸し出されてきて、結局、次の三者の視点切り替えで話が進みます。

  • やることなすこと裏目ってしまうグラスゴー娘ルシンダのチャレンジ、チャレンジまたチャレンジの根性話

  • 古典に「斬新な」解釈を加えてヒット作を連発するエウ リュディケ人舞台芸術家と、彼に復活させられた「昔、小惑星帯では人気者」なフォーク・デュオ二人組みの新作オペラ製作話

  • 超AIに船の制御を乗っ取られて途方にくれる、小惑星採鉱夫と彼の宇宙船「腹ぺこドラゴン」AIの漫才デバッグ


これら3組に、他の登場人物が絡んで話が錯綜。スペオペですから、ラストは、「愛だよ愛」的に無事大団円で幕を閉じます。ま、途中の錯綜(ドタバタとも言える)加減を楽しむタイプの作品ですかね。

この話が、凡庸なスペースオペラと一線を画していると思うのは、随所に散りばめられたギャグでくるまれたシニカルな視線。一つ一つのギャグを取り出すと、くだらないというか、大学SF研の飲み会レベルという程度。しかし、全体を通すと、「人間のやること、できることなんて、所詮こんなもんだよ」という作者の醒めた文明感がうかがえる、というのはほめすぎか。

こういう、醒めたユーモアというかギャグというかが全体にまぶされた風味のスペース・オペラっていうのも、結構好きなんですけど、あんまり出合った覚えがありません。シニカルお笑いスペオペって、翻訳されないのか、もともと作品数自体少ないタイプなのか・・・・・・