リック・ヤンシー『アルフレッド・クロップの奇妙な冒険』
大先輩・堺三保氏の翻訳新作が出た、ということで購入。
表紙は西島大介氏。カバーを取った本体の装幀は、アメリカの本のようなデザインに西島氏のカットを小さくあしらった、ちょっと凝ったもの。
■あらすじ
主人公アルフレッド・クロップは、シングル・マザーの母親と死に別れ、叔父と暮らすひねくれ高校生。全く冴えない生活を送るアルフレッドだったが、夜警を勤める叔父が引き受けた骨董ものの剣を盗み出す仕事を手伝ったことから、とんでもないトラブルに巻き込まれる。
アルフレッドが盗み出した剣こそ、持ち主を無敵にするという伝説の剣エクスカリバー。そして、剣を守る役目を負った円卓騎士団の末裔達は、アルフレッドが剣を渡したモガルトによって全滅させられてしまったというのだ。アルフレッドは、騎士団の最後の生き残りで伝説の騎士ペディヴィアの子孫だというベナッキオと、エクスカリバー奪還の旅に出ることとなった……
■感想
アーサー王伝説を下敷きにしたジュブナイル現代ファンタジー。
アクションあり、ロマンスあり、ユーモアありですが、日本のライトノベルに比べると、いずれも品よくまとめられております。ポイントは、主人公アルフレッド君のひねくれ加減、後ろ向き加減。著者のヤンシー氏は、無く子もだまるIRS(アメリカ国税庁)の税務官だったらしいですが、アルフレッド君には、著者の少年時代が反映されているのかなぁ、と思ってしまったり。まあ、いずれにせよ、ヒーローにはほど遠いアルフレッド君の冒険を気楽に楽しみましょう、というお話で、英雄ハリー・ポッターの大活躍に食傷気味の方には、ぜひお勧めしたい。
まあ正直言って、アルフレッド君のひねくれ具合が語られる導入部分については、ちょっと地味すぎなんじゃないの、という印象。アルフレッド君がベナッキオと共に旅に出るあたりからおもしろくなって、後は、アルフレッド君の素性とエクスカリバーの落ち着きどころがはっきりするラストまで、一息に読むことができました。
一番良い感じだったのは、ひねくれアルフレッドとオヤジ騎士ベナッキオがテネシーからカナダ国境まで走る、旅の前半部分。ロードノベルと呼ぶのは大げさだけど、アメリカ人と旅というと、やっぱり車が似合うなぁ、と思わせられる雰囲気が出ておりました。
さて、本編のラストは続巻への含みを持たせた終わり方になっております。登場当初はひねくれ+いじけ属性だったアルフレッド君、本書の冒険で“いじけ”が取れて、程よいひねくれ具合が残った感じですので、ぜひ、再登場を期待したいところです。