北野勇作『どーなつ』
■感想
記憶の一部を引き換えにしないと入れない場所。
乗り手の記憶を他の乗り手に伝える電気熊。
記憶能力を高められたスーパーアメフラシ。
いつのまにか従業員が人間でなくなっている会社。
などなど、いずれも記憶と世界の変質、そして“穴”にまつわる10編からなる連作短編集。
この話によると、人格は記憶の集積であり、記憶が入れ替わってしまえば、記憶の主もまた別のモノに変わっていってしまうという。うむ、なるほど。
しかしですよ、私の場合、たとえば電話番号を憶えられるのは3個までで、新しい番号を憶えると一番古いものを忘れてしまうという記憶力の人なわけです。つまり、新しいことを憶えるとなにかしら古いことを忘れてしまうというメモリー容量が限られているタイプ。これは、北野流に言うと、日々(僅かずつであっても)別の人間に変わっていっていくということ? 気づかないうちに、自分は昔の自分ではなくなっている? たしかに、最近、そんな気分になることもあったけど……と、自分の記憶力減退も絡めて、なかなかゾッとした気分にさせられたのでした。
笹川吉晴による解説、西島大介のコラム・マンガ付き。