メディヘン5

時々書く読書感想blog

サミュエル・R・ディレイニー他『ベータ2のバラッド』

たぶん一昨年に買ったのだと思う。どうも、いつどこで買ったか憶えがない。bk1にもAmazonにも買った記録が無いし。普段立ち回る先の本屋で、この<未来の文学>を並べているところはないし。カバーもついてなくて手がかりないし。まあ、買っていて不思議はない本ではあるんだけど……こういうのは、自分ではマレで気になってしまう。

途中まで読んで、ずっと放り出していたものだけど、正月におもむろに取り出して読了。

ベータ2のバラッド (未来の文学)

ベータ2のバラッド (未来の文学)

ニュー・ウェーブSFのアンソロジーというのは、すっかり忘れていて、最後に編者あとがきを読むまで意識しなかった。シチュエーションは思い出せないものの、自分の思考パターンからすると、「ディレイニーの入った短編集だし、<未来の文学>だし」ということで買ったのだろう。

収録1作目、アンソロジーのタイトルにもなっているディレイニー「ベータ2のバラッド」。よかった。美しかった。超光速船時代の学生が、不可解な歌を残して消え去った亜光速時代の移民船の謎を現地調査で解く課題を与えられて……という話。この出だしからか、謎解きのシンプルさを批判する評も読んだが、そういうものでもないでしょう。移民船が陥った異様な状況とそれに向き合う船長の気高い姿といったところから喚起されるイメージは、残酷さや苦痛も交えた美しいもの。単純に情景を視覚化するという意味ではない、小説ならではのイメージや感覚を喚起する力を味わえてなかなかに感激。

2作目は、バリントン・J・ベイリー四色問題。これに蹴つまずいて放り出していたのだった。風刺ものなのかしらん、と思ったんだけど、わけわからん。他にも「わからん」と書いている人がいて(→「ベイリーの「四色問題」は傑作か駄作か」)安心した、小人物な私。

キース・ロバーツ「降誕祭前夜」。クリスマス・イブの一夜、ナチスに支配された英国を舞台にしたサスペンス。クリスマスがネタだし英国人の書いたものだけに、いろいろシンボルが埋め込まれていたり一筋縄ではいかなそうだが、そこまで読み解く力は無し。良く出来た歴史改変モノ特有の異様な雰囲気を風味にした良質のサスペンスとして単純に楽しませてもらいました。

ハーラン・エリスン「プリティ・マギー・マネーアイズ」ラスヴェガス、金に憑かれた女と彼女に翻弄される男。というと普通の小説のようだが、スロットマシンという道具立てに媒介させるところがミソ。スロットマシン並みに中毒性の高い文章で、息もつかせず読み切らされてしまった。

ラストは、リチャード・カウパー「ハードフォート手稿」と、そのネタ元であるH・G・ウェルズの「時の探検家たち」コニー・ウィリスドゥームズデイ・ブック』を読む前なら、きっとドキドキして読めたんだろうなぁ……

bk1)(本ブログ・SF小説