仁木英之『僕僕先生』ボクっ娘仙人は杏の香り
こちらの評(仁木英之『僕僕先生』@第弐齋藤 土踏まず日記)を読んで、これは気軽に読めそうだゾ、というノリで購入。
- 作者: 仁木英之
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/11/21
- メディア: 単行本
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気軽にと思って買ったわりにいざ読み始めると、仙人モノということで、ついつい『封神演義』とか『鳥姫伝』とかのどハデなノリを想像して身構えてしまった。が、ぜんぜんそんなことはない、癒し系の物語。
いいところのぼっちゃんである主人公のニート青年・王弁が、親の使いで訪れた仙人・僕僕先生は、杏の香りを漂わせる美少女姿。正体が美少女のはずはあるまいと思いつつ、見た目に惹かれてしまった王弁は、先生に誘われるまま、世界を股に掛ける冒険に旅立つ。
主人公がこういう性格付けで物語が始まるとあれば、当然、成長物語的な要素が入ってくるわけで、最初無茶苦茶頼りない王弁も、最後には一皮むけた姿を見せる。なのに、物語自体はさまざまな不思議・怪異を描きつつも、「ここで王弁は一皮むけた」とはっきりさせるような怒濤の盛り上がりとか、スペクタキュラーなクライマックスがあるわけではない。淡々と話が進みつつ、王弁もなかなかやるようになったねぇ、と穏やかに思わせるところが、この物語の不思議さというか、癒し系と言いたくなるところ。
こうした王弁の姿に加え、人を救いたいという動機を秘め薄れいく人界と仙界・天界の関わりに寂しさを見せる僕僕や、純愛風情の二人の関係など、全てが淡いトーンで語られていき、ラスト、杏の花を上手く使って雰囲気を壊さずピタリと収まりをつけているところは見事。平和な休日の午後にのんびり楽しみたいファンタジー。
(bk1)(本ブログ・ファンタジー)