メディヘン5

時々書く読書感想blog

ポール・オースター『幽霊たち』

最近、ポール・オースターってよく見かけるよなぁ、流行っているのかね、などと思っていたら、信愛書店の海外小説文庫本コーナーに数冊。他の2冊はエッセイだったので、まずは小説を読んでみるかと購入。……しかし、そもそも何故ポール・オースターという名前がインプットされたのか、まったくわからない。本当に流行っているのかどうかも定かでない。まあ、どうでもいいと言えばどうでもいいんだけど……

幽霊たち (新潮文庫)

幽霊たち (新潮文庫)

野心に燃える若き私立探偵ブルーは、ホワイトなる人物より仕事の依頼を受ける。その仕事とは、ブラックという男の監視。勇躍、ブラックの住むブルックリンのアパートと通りを隔てた向かいの部屋を確保し、監視に取り組むブルーだったが、何も起こらない。毎日、机に向かうブラックをひたすらながめ続ける日々。しだいしだいに状況への疑念や監視対象との同一化がきざし、ブルーは空想の世界をさまよい始める……

舞台はニューヨーク、時代は現代(と言っても1940年代)と言いつつ、登場人物の名前がブルー・ホワイト・ブラックと素晴らしくシンプル。物語の状況も同様にシンプルなのだが、監視活動に励むブルーの脳裏を行き交うさまざまなエピソード(ブルックリン橋についての蘊蓄やら、ブラックが読んでいた文学作品についてやら)が絶妙に織り込まれ飽きがこない。また煮詰まったブルー君の爆発で締めくくられるラストも余韻を遺し見事。

文庫で本文120ページ弱という薄手の体裁だけれど、単純な枠組みに反響する豊かなデテールを味わっていると、ページ数をはるかに越えた厚みが感じられる。

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