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ジャック・ヨーヴィル『ドラッケンフェルズ』

0mbさんの熱烈な推薦を読んで購入。

ウォーハンマーノベル ドラッケンフェルズ (HJ文庫G)

ウォーハンマーノベル ドラッケンフェルズ (HJ文庫G)

ルネサンス後期、活版印刷本と歯車点火式の銃が普及し始めた16世紀初頭」のヨーロッパを模した、TRPGウォーハンマーの採用する世界観にもとづくファンタジー世界。ヒロインジュヌヴィエーブのような吸血鬼や、エルフ、ゴブリン、ドワーフといった種族が人間と共存しているこの世界の中で、神聖ローマ帝国(ドイツ)をモデルにした<エンパイア>が本書の舞台。

この世界では、有史以前・1万5千年前より暗躍する不死の<大魔法使い>ドラッケンフェルズが猛威を奮っている。このドラッケンフェルズ、かつて一度は<エンパイア>の始祖シグマー・ヘルデンハンマーに打ち倒されたものの、蘇って力を蓄えつつあるという。


プロローグでは、貴公子オズヴァルドが、ヒロインにして齢600歳/外見17歳の吸血鬼ジュヌヴィエーブ(ジュネ)や盗賊王のルディ、ドワーフのメネシュといった面々を率い、ドラッケンフェルズ討伐のためその根城とするドラッケンフェルズ城に侵入するさまが描かれる。ただし、プロローグは、仲間が次々と脱落し、ジュネもついに直面したドラッケンフェルズに打ち倒された後、オズヴァルドが単身、<大魔法使い>に撃ちかかる場面で思わせぶりに終了する。

本編は、それから25年後。一転して、演劇家で俳優のデトレフに、オズヴァルドがドラッケンフェルズ討伐の顛末を劇にして上演するよう依頼するところから始まる。上演の舞台として選ばれたのはドラッケンフェルズ城。<エンパイア>の貴顕を集める大作の上演の無事成功するのか?そしてドラッケンフェルズ討伐の真相とは?……

読む前は、吸血鬼のヒロインが大活躍するアクション系のヒロイック・ファンタジーを想像していたので、演劇家デトレフが登場して長口上をふるう展開に意表を突かれた。しかし、そこからがおもしろい。まず、デトレフのハッタリの効いたキャラクターを中心に、一座のメンバー集めや、そしてドラッケンフェルズ討伐の生き残りの面々の再集合と、<エンパイア>のさまざまな側面を描きつつ個性的な登場人物を印象づけて行く手際が上手い。

そして、デトレフを始めとする劇団面々の個性の豊かさもあって演劇自体の成否が危うく、ホラーと別のところでハラハラ。これに、次第に姿を表すドラッケンフェルスの脅威、クライマックで明かされる討伐の真相、といった要素が入り交じって楽しめた。

吸血鬼となった頃の清純な美少女のようにも、数百年の経験を積んだ妖艶な美女のようにも振る舞うジュヌヴィエーブのキャラクターも魅力的。『ドラッケンフェルズ』の続編である『吸血鬼ジュヌヴィエーブ』や『ベルベットビースト』はもちろん、ヨーヴィルが別名キム・ニューマンで書き、別の女吸血鬼ジュネが登場するという『ドラキュラ紀元』三部作も読みたくなってしまった。『ドラキュラ紀元』は、昔、なんとなく躊躇して買い逃してしまったんだけど、今から手に入れるのは大変そう。再販してもらえないもんだろうか……

bk1)(本ブログ・ファンタジー書評・レビュー