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機本伸司『僕たちの終末』

僕たちの終末 (ハルキ文庫)

僕たちの終末 (ハルキ文庫)

僕たちの終末

僕たちの終末

なんとなく文庫書き下ろしで出たように思ってしまったのだけど、2005年に出た単行本(下の方)の文庫化だった。表紙はどちらもD.K氏だけど、単行本版の方がお上品でいいなぁ。

物語の舞台は、太陽の異常活動による人類絶滅が予測された近未来の日本。父親が経営する零細人材派遣会社を手伝う那由は、父親が応募した「会費を払えば*抽選で*地球脱出用の恒星間宇宙船の乗船権が手に入る」というWebサイトを調べ、それが絶滅を予測した科学者・正によるものだということを知る。「ダメで元々」という正の話にのった那由と父親は、会社ぐるみで恒星間宇宙船の建造に関わることになる……


というわけで、『神様のパズル』の“宇宙を作ろう”、『メシアの処方箋』の“神様を作ろう”に続いて、本作は“恒星間宇宙船を作ろう”。グッとスケールが縮んだようにも思えるけれど、物語としては一番おもしろかったかも。どうも、前二作では、××を作ろうという動機が曖昧というか、たまたま作れそうだからとか、作れないと言われるのが悔しいからという程度の話で、大規模なリソースを投入する必然がイマイチ薄味。本作では一応、破滅からの脱出という名目があるので、なんとなくそういうこともあるかもしれん、と思えるとことがある。(作れないと言われるのが悔しい、という要素は共通してますが)

ネットで評を読んでいると、恒星間宇宙船建造を巡る書き方について、技術的にどうこう、あるいは逆に政治的にどうこうと書いているものを見かけるけど、そのあたりを期待するのは筋違いなのでは。過去二作にせよ本作にせよ、青春冒険小説の雰囲気があるわけだけど、これらの作品での冒険は“××を作ること”だろう。大抵の冒険小説で、冒険そのもののデテールは結構曖昧で冒険する人たちにこそ焦点があるように、機本作品でも味合うべきは“××を作ること”ではなく、冒険者たちを描いた部分の方だろうと思う。

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