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時々書く読書感想blog

笹本祐一『ミニスカ宇宙海賊』 タイトルに騙されたら損

ミニスカ宇宙海賊1 (朝日ノベルズ)

ミニスカ宇宙海賊1 (朝日ノベルズ)

どうにもベタベタなタイトル&表紙なもんでスルーしかけたのだけど、<銀河乞食軍団>の系譜に連なると言ってもよさそうな真っ当な国産スペース・オペラの開幕。読み逃さなくてよかった。

あらすじ(?)

舞台は、地球とは何の関係も無い某銀河帝国内のとある自治惑星系。地球と関係ないと言っても、登場人物の名前は日本人・欧米人混在だし、私立女子高・メイド喫茶といった風俗は現代日本(を舞台にしたアニメ、ライトノベル)と共通。そこはそういうもんだ、と深く考えないところ。超光速・重力慣性制御あたり前、というのもスペオペのお約束。

ヒロインは、宇宙海賊の跡継ぎであることをいきなり知られた女子高生。で、第1巻は、ヒロイン・茉莉香が、自分の立場を知らされ宇宙海賊船長を継ぐことを決めるまでのエピソード。彼女に跡目を継がせないと困るものの、自分たちの親分が勤まるかも見極めたい海賊たちが見守る中、跡目相続に興味津々の諸勢力のちょっかいを茉莉香が学校のヨット部の仲間たちとどうさばいていくか・・・・・というお話。

プロローグが、タイトル&表紙のベタベタなノリそのもの(しかもあんまりテンポがよくない)なので、立ち読みで出だしを読んでがっくりする人もいるかもしれない。ところが、第1章の冒頭からいきなり、さすが宇宙開発&メカ好きの笹本祐一、というテイストに雰囲気が変わるので騙されてはいけない。

動きの速い主人公が、「できる」学校の仲間たちとパキパキ動いてプロを煙に巻く、というあたりは、<妖精作戦>ノリ。若手でやり手のサポート役がぶつくさ言いながら巻き込まれていくのも、<妖精作戦>のレッドバグ以来の正調笹本節。

感想

笹本祐一の書くスペースオペラと言うと、『スターダスト・シティ』(1986)とか『星のダンスを見においで』(ソノラマ文庫版は1992)で、それぞれシリーズの第1作としておもしろかったのに続きが出なくて残念、という印象がある。

こうしたところからすると、スペースオペラって、本来、著者が得意技の一つとして伸ばしていきたかった方向性だろうに、90年代のSF冬の時代という状況とソノラマ文庫を活躍の場としてきたという制約がそれを許さなかったのだろう。であれば、「浸透と拡散」が何周目かの新たな状況に入りつつある現状で、ソノラマ文庫終了→新しい展開を目指す朝日ノベルズ創刊、というのは、著者にとって良いことなのでは? そんな楽観的な出版事情でもないか。『ミニスカ宇宙海賊』には、ぜひ続編刊行まで漕ぎ着けて欲しいものだけど・・・・・・

さて、ヒロイン・茉莉香が所属するのがヨット部ということで、本作では“帆船”が大活躍。超お嬢様学校だから・・・・・で済まされてるけど、女子高のヨット部が三本マストのスクーナーを保有しているのも、ものすごい。ヨット好きの子供たちが夏休みに機帆船で冒険旅行、というところはアーサー・ランサムの『ヤマネコ号の冒険』を思い出してしまった。

スペオペだから帆船といってもソーラーセイル*1、しかも、帆の上げ下げ(展開収納)が出来る海上帆船タイプという設定。ソーラーセイルというと、ペイロードに対して超巨大な超薄膜を超展開して使い捨てという先入観があるから、海上帆船のイメージを受け継ぐタイプには違和感があった*2。宇宙開発に詳しい著者だから、意外とこういうのも考えられますよ、ということなのか、スペオペなんだしドラマ重視!ということのなのか。

しかし、下のニュースの情報を知っていてタイミングを合わせた設定なのだとしたら、それはまたすごい。

太陽の光の粒子を大きな帆に受けて進む「ソーラーセール(太陽帆船)」の実現を目指し、宇宙航空研究開発機構は8日までに、近くの惑星まで航行する実証機の準備に着手する方針を固めた。

http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2008110900012

bk1)(本ブログ・SF小説書評・レビュー

*1:太陽帆船・太陽風帆船・宇宙ヨット・・・・・・いまどき、何が一番メジャーな呼び方なんだろうか

*2:宇宙からのメッセージ』のトラウマ?