メディヘン5

時々書く読書感想blog

マーセデス・ラッキー『宿命の囁き』

いわゆる”剣と魔法”ものです。割とお気に入りの作者なので、新刊コーナーで見つけて、即購入。

宿命の囁き 上
マーセデス・ラッキー著 / 山口 緑訳
東京創元社 (2003.11)
ISBN : 4488577067
価格 : ¥882
通常2-3日以内に発送します。
宿命の囁き 下
マーセデス・ラッキー著 / 山口 緑訳
東京創元社 (2003.11)
ISBN : 4488577075
価格 : ¥882
通常2-3日以内に発送します。

■あらすじ

この作品は、剣と魔法の世界の国家・ヴァルデマールを舞台とした<ヴァルデマール年代記>という連作に含まれるもので、さらに、<ヴァルデマールの風>という三部作の第1巻となっています。
 
主人公は男女2名。一人は、ヴァルデマールの王女にして王位継承者であるエルスペス(上巻の表紙)。もう一人は、魔法に満ちた"ペラジールの森"を守る一族の長の息子”暗き風"(下巻の表紙)。ストーリーは、エルスペスと"暗き風"の視点が交互に切り替えられる形で進みます。
 
外部からの魔法による攻撃や魔法使いの侵入から守られているはずのヴァルデマール国内にいるにもかかわらず、魔法で変装した暗殺者に襲われたエルスペスは、祖国を守る力が弱まっていることに気付きます。脅威に対抗するためには強力な魔法使いが必要と考えたエルスペスは、協力してくれる魔法使いを求めて旅立ちます。お供をするのは、幼馴染の元盗賊、馬の形をした精霊、剣の師匠から受け継いだ魔法の剣”もとめ”。
 
一方、優秀な魔法使いであった"暗き風"は、一族に大きな打撃を与えた魔法事故の原因が自分にあると考え、魔法を捨て、森への侵入者を監視する見張り役の任についています。しかし、彼の一族の元にも、密かな脅威が迫りつつあるのでした。彼の仲間は、言葉の通じる隼、二歩足のトカゲ族、美貌の猫娘グリフォンの夫婦。
 
物語は、当然、二人の主人公が出会い、共に戦い、影響を及ぼしあいながら惹かれあっていく...という風に進むわけですが、今回は、二人の出会いと、"暗き風"の一族の宿敵との戦いまで。ロマンスについては、さわりのみで今後にご期待ですし、ヴァルデマールに対する脅威の正体も本作では明らかになりません。

■感想

ヴァルデマール年代記については、既に何冊かが訳出されています。私も、女剣士タルマと女魔法使いケスリーの冒険を描いた一連の作品と、ケスリーの孫娘ケロウィンが傭兵隊長となるまでを描いた『運命の剣』を読みました。本作の主人公エルスペスの剣の師匠が、このケロウィンで、エルスペスが持つ魔法の剣”もとめ”も、ケスリーからケロウィンへ、ケロウィンからエルスペスへと受け継がれたものなのです。こうした世代を超えたつながりが盛り込まれている点が、このヴァルデマール年代記の楽しいところ。
 
また、明らかにヨーロッパ風のヴァルデマールが中心でありながら、対置される存在として、まったく異なる文化を持ち、古い伝承を守る遊牧の民(タルマや"暗き風”の一族も、その一部)を登場させている点も、物語に奥行きを与えていると思います。

しかし、シリーズ名はともかく、本作の邦題は今イチだと思うんですが、もうちょっとカッコよくならなかったもんなんですかね。