メディヘン5

時々書く読書感想blog

スーザン・トラヴァース『外人部隊の女』 勇敢になりたかった女

第2次大戦中にフランス外人部隊に従軍し、戦後、レジョン・ドヌール勲章を受けた女性の手記。上記の島謙作さんの記事を読んで、面白そうだと思っていたところ、ちょうど巡回先の古本屋で発見。さっそく購入して読んで見た。
 
この手記、戦争小説・冒険小説・恋愛小説とも読める優れもの。紹介の方も力が入って、長くなってしまいました・・・

外人部隊の女
外人部隊の女
posted with 簡単リンクくん at 2006. 7.29
スーザン・トラヴァース〔著〕 / 高橋 佳奈子訳
新潮社 (2003.9)
ISBN : 4105435019
価格 : ?2,100
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■内容

この自伝の主人公であり著者であるスーザン・トラヴァースは、1909年(明治42年)生まれ。彼女の人生は概ね、第2次大戦を軸にした三部に分かれている。

第1部は、誕生から第2次大戦開戦まで。1909年に生まれた、ということがどういうことになるかというと、 
 
 第1次世界大戦終戦(1918) → 9歳、 第2次世界大戦開戦(1939) → 30歳
 
 ということで、10代と20代が両世界大戦間にすっぽり入ってしまう。戦勝国たるイギリス軍人の家庭に生まれた彼女だが、第1次大戦後の思春期時代をカンヌで過ごすことになる。これは、退役して恩給生活に入った父が、ポンド高を活用するため、フランスでの生活を選択したため。両親は風光明媚なカンヌで優雅な引退生活を送ろうと考えたのだろうが、著者曰く、当時のカンヌは「金持ちとそれに群がる若い女ばかり」というところ。そうした環境での外国暮らしが多感な少女に良い影響を与えるわけはなく、成長して独立したスーザンは、華やかな生活にあこがれてばかりの「ふしだらな女」(これも著者曰く)になってしまう。大戦間のヨーロッパ上流社会の状況というのは、なかなか想像が及ばないところがあるが、父親に認められたい一心でテニスの腕を磨いていたスーザンは、ヨーロッパ各地のテニス大会(&パーティ)を渡りあるく生活で20代を送ることになる。
 
 30歳となり、浮き草暮らしにも倦んできたスーザンは、フランスのとあるシャトーで第2次大戦開戦のニュースを聞く。恩義を感ずるフランスへの貢献の精神に駆られた彼女は、勇躍、フランス赤十字に参加。戦争初期にはフィンランドへ送られた彼女だったが、ナチス・ドイツのフランス占領という状況から、ド・ゴール将軍が引きいる自由フランス軍に同行、アフリカに向かう。亡命政府の軍隊であった自由フランス軍外人部隊を中核とした寄せ集め。この部隊に同行したことが、スーザンと外人部隊の関わりの始まりとなる。
 アフリカのフランス植民地を巡るうち、すっかり看護婦がいやになったスーザンは、これも父親仕込みの自動車運転の腕を活かし、ついには、中核部隊を率いるケニーグ将軍付きの運転手を勤めることになる。いつしかケニーグ将軍と恋仲になったスーザンは、部隊が待機状態の間、ベイルートで将軍と共に暮らし、既婚者である彼との別れの予感におびえながらも絆を深める。結局、部隊の前線への派遣にも運転手として将軍に同行した彼女は、自由フランス軍曹長に任ぜられる。ドイツ軍の砲爆撃に怯えながらの塹壕暮らしにも耐えた彼女は、激戦地ビル・ハケイムでの戦いの際にも、銃弾が飛び交う戦場で車を駆り将軍の脱出を実現する。(この手記によると、パリの地下鉄のビル・アケム駅の名は、この激戦地からとられているということ)
 
 著者の人生の第三部は、第2次大戦の終戦後。戦争中、ケニーグ将軍に尽くしたスーザンだったが、第2次大戦の終結は彼との別れをもたらす。最終的に、戦後のフランス軍の中核を担う将軍の立場を思い自ら身を引いたスーザンは、生死を共にした外人部隊への正式入隊を決意する。部隊と共にインドシナ(つまりベトナム)に赴いた彼女は、部隊の戦友と結婚。子供の誕生、スーザンの退役、夫の罹病と退役といった事件を経ながらも、人生の後半は、過去を封印して平穏な暮らしを送る。夫の死後、レジョン・ドヌール勲章を受けた彼女は、老人ホームで余生を送る中、封印を解いて本書を発表……

■感想

スーザン・トラヴァースが、かくも波乱万丈な人生を送った理由の一つには、幼少期より彼女を認めることが少なかった父親に対し、誇りに足る娘としての自分を見せたかったということがあるようだ。こうした点は、父性的なイメージのケニーグ将軍に魅かれた点にもつながるのかもしれない。

本書の中では、ビル・ハケイムからの大脱出と、戦後の平和な日々にケニーグ将軍から勲章を授与されるくだりが、白眉。特に後者は、将軍自らに勲をたたえられる誇りと彼への忘れがたい想いからの激情を、夫への思いやりで抑えこむ心情が印象的だった。