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冲方丁『マルドゥック・スクランブル』 美少女アクションSFの極北

本年度の日本SF大賞受賞作。今年の収穫というにとどまらず、オールタイム・ベスト級の力作と言ってもいいだろうと思う。この作品については、絶対、何か書こうと思っていたのだが、いつの間にか年末になってしまった…

マルドゥック・スクランブル
冲方 丁著
早川書房 (2003.7)
ISBN : 415030730X
価格 : ?756
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■あらすじ

3巻に分かれているが、大長編を分割したもので、シリーズものというわけではない。3巻を通じたストーリーは比較的シンプル。舞台は、戦後の混乱から回復しようとしている未来都市・マルドゥック市。元少女娼婦であるルーン・バロットは、自分を拾った男に殺されかけるが、戦時中に開発された超テクノロジーを適用され蘇る。力を得た彼女は、彼女の殺人未遂事件解決を目指す担当官の仲間となり、自分が殺されかけた理由を求めて戦い始める・・・・・・

■感想

ジャンル的には、美少女を主人公にしたアクションもので、ビジュアルな描写の多い、いかにも今時のエンターテイメント。しかし、かなり分厚い読後感を感じるのは、一つには、SF的小道具を最大限活かしたアクション・シーンの書き込みにあるだろう。銃を撃ちまくるような単純なアクションにも様々な味付けがこらされているが、圧巻なのは、2巻から3巻に渡るギャンブルのシーン。興味の無い人間には”運任せ”にしか思えないギャンブルを闘争と対決の場として、見事に描き出している。

当たり前かもしれないが、SFには美少女が登場する作品が多い。本棚で目についただけでも、『夏への扉』のリッキーとか、『モナリザ・オーバードライブ』のモナ、クミコ、『スノウ・クラッシュ』のY・Tとか。そうした中でも、私の中ではダン・シモンズの<ハイペリオン>シリーズに登場するアンジーと、この『マルドウック・スクランブル』のバロットが2つの極点を形成しているように思える。

美少女もののSFには、二つの方向性があるように思う。
それは、どちらも、過渡状態にある「少女」の可能性に基づく男性(作家)の幻想に立脚したもので、一つは、少女における聖母性を中心とした書き方。もう一方は、少女の個の確立を軸にした書き方だ。つまり、少女が成長すると、聖母になるか、いい女になるか、という両極だ。<ハイペリオン>のアンジージーザス・クライストにしてマドンナであるというスーパーガールの頂点だが、本作品のバロットは、作中にいい女の先輩まで登場して指南を受けちゃう、約束された美女。彼女が成長して、男を軽くあしらう姿も読んでみたいものだが、それは野暮というものだろう。

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