コニー・ウィリス『ドゥームズデイ・ブック』 “ハラハラしたSF”ベスト1
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この作品については、改めて読み直してから書こうか、と思っていたところ、上記の記事を読んだら、なぜか、どうしても一言書きたくなってしまいました。
ドゥームズデイ・ブック 上
posted with 簡単リンクくん at 2006. 7.30
ドゥームズデイ・ブック 下
posted with 簡単リンクくん at 2006. 7.30
■感想
ある意味、非常に地味なストーリーなのですが、「病気」というものにフォーカスしている点がポイント。14世紀イギリスと言えば、前に書いた「百年戦争」の時代ですが、同時にペストの流行が生じた頃。一方、我々の時代である21世紀は、気候の変化と人の移動の活発化により、SARSを始め新たな感染症の流行が心配される時代。特に恐ろしいのは医療技術が未発達だった中世のペスト。当然、その話になるんだろうなぁ、と思って読んでいると、ジワジワと予兆が忍び寄り、最後にはペストが黒死病と呼ばれた由縁がよくわかる描写がテンコ盛になって、ドキドキしっ放し。
また、正体が疑われるのを避けるためとタイムパラドックス防止のため、便利な未来の小道具など一切持っていない無力なキヴリンはどうなるのか? キヴリンを助けた14世紀の家族の運命は? というあたりも、キヴリンを救出すべき21世紀側がどうしようもない混乱に陥ってしまい、まったく先が読めずにとにかくハラハラさせられます。
■評価
かなり分厚い本で、上巻はひどく冗長なんじゃないの?と感じられるほど、14世紀の人々と21世紀の混乱状況が細かく描きこまれており、前者から来る14世紀人への感情移入と後者が活きる救出のドンデン返しから、途中のドキド・キハラハラが、ラストには大きな感動へとつながりました。
マイクル・クライトンの『タイムライン』(現在、読みかけ)と同じような設定の本作品、一応、書かれたのはこちらが先。厚みは同じ程度でも雰囲気がまったく違うこの両作品、普段はSFは読まないという人ほど、『ドゥームズデイ・ブック』の方が合うのではないでしょうか。つうか、クライトンと比べたら、コニー・ウィリスに失礼か。
■関連リンク
- 『ドゥームズデイ・ブック』訳者あとがき@nozomi Ohmori SF page