ケネス・ブラウワー『宇宙船とカヌー』
ちくま文庫1988年刊行・定価800円、現在は在庫切れ。なんとなく Amazonで値段を見たら、マーケットプレースで中古700〜2,500円からコレクター商品12,600円(!)の値が。全然、知らない本で、行きつけの古本屋で偶然見つけて買ったんだけど、実は人気の本だったとは。私が買ったのは400円。まあ、4刷だし痛みが激しいから、そんなもんだろう。
- 作者: ケネスブラウワー,芹沢高志
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1988/06
- メディア: 文庫
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読んでみたら、確かに高いお金を積んでも美本が欲しくなる人が出るのが、なんとなくわかった。というか、これを品切れにするのはどうなんでしょうか、ちくま文庫さん、という印象。
乗り物の歴史の本か、というタイトルだけど、内容は、物理学者フリーマン・ダイソンとその息子、ジョージ・ダイソンの評伝。というより、ジョージ・ダイソンに関する内容が主で、父フリーマンについては、息子ジョージを理解するための背景という扱いなのかもしれない。
そのジョージ・ダイソン*1、Wikipediaでは科学史家・Science Historian、というタイトルをつけている。この本で読んだ限りでは、ナユラリストにしてカヌーイスト*2という印象。
ジョージは、10代で家を出た後、バンクーバー島を南端とするカナダの太平洋岸ブリティッシュ・コロンビア州の沿岸を船で行き来するようになる。その生活の中でジョージが理想と考え、自ら作ったのが、アリューシャン列島に暮らしたアリュート族のバイダルカと呼ばれるスタイルのカヌー(シー・カヤック)。ジョージによると、このアリュート族のバイダルカこそが、海を行き来するのにもっとも適した乗り物なのだという。*3
ジョージは、アルミの骨組みにグラスファイバーの表皮という現代テクノロジーを導入してバイダルカを再生。著者がそのバイダルカに同乗したシーンを読むと、「海の上に座ったかのような」という乗り心地を味わってみたくなる。せめて、彼のバイダルカがどういう形をしているのか知りたくて、ネットを探してみたが……
- まず外観がつかみやすいのは、ジョージが書いた"Baidarka: The Kayak"の表紙。
- 最近のデザインや製作過程については、flickrに美しい写真のset・Dyson/Baidarka が登録されている。flickrには、ジョージ自身が撮影したとおぼしき写真も登録されている。
- 本書の終盤に登場する6人漕ぎの大型カヌーについては、"The Story Of A View, A Vision And A VentureというPDFファイルに含まれるモノクロ写真しか見つからなかった。
- カヌーと関係ないが、wikipediaのフリーマンとジョージの写真を見比べると、親子がそっくりでおかしい。特に本書でも度々登場する「大きすぎる鼻」の遺伝は明白。
さて、本書は、ジョージがこうしたカヌーを建造するまでに至った過程が、彼が過ごした美しい自然の描写とともに記されている。その合間に挿入されるのが、父フリーマンの壮大かつ強烈なビジョン。彗星への植林、核ロケット・オリオン計画、そして、ダイソン球……SFではおなじみの父の宇宙へのビジョンと、息子の地球の自然へのビジョン。ともに美しくも過酷な両者の対比が、ひどく刺激的だった。