メディヘン5

時々書く読書感想blog

冲方丁『テスタメントシュピーゲル1』

blog再開、と思ったものの、結局記事が増えないまま月末。
まぁ、本自体、あんまり読んでないわけだけど。

あんまり本を読んでいないというのには、なんだかヘロヘロに忙しいといった理由があるのだけれど、「他にやることはあれこれあれど、この本だけは読まなければッ!」と思わせられるような本に出会えないなぁ、ということがあるのも確か。だもんで、たとえば電車に乗っても、座れると即、寝ちゃう。眠いけど先が気になるから寝ないで読もう、ということがない状態。

そういうコンディションの中で、久々に先が気になって一気に読んだのが、冲方丁シュピーゲル・シリーズ最新作。前作『スプライトシュピーゲルIV テンペスト』&『オイレンシュピーゲルWag The Dog』がかなり複雑かつ熱血な展開だっただけに、1年半待った後に出た今作には期待大なのでありました。

で、結論から言えば、期待にたがわぬ熱くぶ厚いストーリーで、満足度・高。
これで880円(税込)っていうんだから、小説というのはなんとコストパフォーマンスの高いエンターテインメントか。


これまで4冊づつ出た<スプライト>と<オイレン>の二つのシリーズを合流させてケリをつけよう、というのがこの<テスタメント>の役割ということだけど、この1巻は、<オイレン>サイドがベースで、<スプライト>のキャラクターが要所に絡む構成。

導入部からして、ロケット打ち上げのような勢い。打ち上げ台の上でゆったりと整備を受けていたと思っていたら、急に火がはいってドカンとアクションがスタート。そのあとは、<オイレン>の3人のヒロインがそれぞれ、これまでに無い警察もの/エスピオナージュもの/電脳ものの色合いで個別に動いて、物語が本格的に展開。中盤のアクションの後は、これまでのシリーズの中で示唆されてきた危機の要素があらわとなり、カタストロフィーの連続へ。

三匹の犬としての連携が売りの<オイレン>のヒロインたちが、本作ではほぼ別個に動いたままそれぞれのカタストロフィーを迎えてしまったり、直接語られない<スプライト>側では組織トップからヒロインたちまでがどうやら悲惨・危機的状況に陥っていることが示唆されたり、と大変続きが気になるラストで終わってしまい、続きが気になる気になる。

ところで、太字で作品内に明記されるまで気づかない間抜けな読者である自分は、この巻の終盤まで気づかなかったけど、<シュピーゲル>シリーズって、「報い」についての物語だったみたい。考えてみれば、過去の<マルドゥック>やら<ばいばい、アース>やらでもみな「報い」ということが繰り返し語られていたことにいまさら気づいたところ。つまり、さまざまな行いになぜ報いがなされなければならないか、また正当な報いが得られないことの悲惨さを、既存のモラルやインセンティブの枠組みに安直に頼らずに説明するために、物語が熱く・ぶ厚くなってきたんだなぁというのが本作を読んでの感想。<シュピーゲル>シリーズにおける「報い」の構造の全体はまだよくわからないのだけど、その点がどう明らかにされていくかについても楽しみなのだった。

bk1)(本ブログ・SF小説書評・レビュー