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時々書く読書感想blog

チャイナ・ミエヴィル『ペルディード・ストリート・ステーション』『都市と都市』感想

カミサンとジュンク堂本店のSFブックミュージアムに行った際、「そういえばこれはエラく評判が高かったようだぞ」と思って買ったのが『ペルディード・ストリート・ステーション』。この作品については、このblogの中断前の最後の記事、『SFが読みたい!』2010年版の紹介でも「読まなきゃ」という感じで触れているのだが、2010年後半から2011年前半の一年ほど単身赴任で外国に行っていたり、その後しばらくまともな小説を読まない時期があったりで、すっかり忘れていた。

ペルディード・ストリート・ステーション (上) (ハヤカワ文庫 SF ミ)ペルディード・ストリート・ステーション (下) (ハヤカワ文庫 SF ミ)

『ペルディード・ストリート・ステーション』を積んでいる間に、本屋で平積みになっているこれも未読な『都市と都市』を見て確かめたところ、こちらの方が先に文庫が出ているようだったので、よぅしこの際出た順*1に読むか!ということで、『都市と都市』も買ってこちらから読み始めた。

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

で、『都市と都市』を読んで、その後続けて『ペルディード・ストリート・ステーション』を読んだのだけど、この順番は失敗だったかも。


『都市と都市』を読んでいる間は、”重なりあった2つの都市”という着想や2つの都市を分ける仕掛けにワクワクしながら読んでいた。けれどもストーリー自体にはあまり乗れず、クライマックスからラストに至ってももスルッと読み終わってしまって、正直、なんで数多くの賞を受けているのか、よく理解できなかった。読後感じたのも、SF/ファンタジーの枠組みを現実のトルコあたりの状況にうまくあてはめた境界的な試みが評価されたのかな、というレベルの感想だった。

その経験もあって、『ペルディード・ストリート・ステーション』はちょっと用心しながら読み進めたものの、自分的にはこちらはまったくOK。舞台であるニュー・クロブソン市の情景とその住人たちの描写に、そのダークさに若干引きながらも次第に惹きつけられ、主人公アイザックとヒロインのリンそれぞれのストーリーラインがまさに暴力的に結び付けられていく展開を追って、最後は作品世界に没入しながら一気に読み終わった。ダークでアンチなファンタジーのビターさにやられましたよ、こりゃ、という読後感。

で、2作品続けて読んで思ったのだけど、これは、翻訳が出た順番通り『ペルディード』→『都市と都市』という順番で読めばよかった、ということ。



『ペルディード』は、重厚なファンタジー作品の中に描写のダークさと結末のアンチ・ファンタジーさという形で「リアル」をぶち込んで、ファンタジーとリアルの相克を描いている点が素晴らしいと思う。一方、『都市と都市』は、警察小説/ミステリーのリアルさにSF/ファンタジーのアンリアルをぶつけることで優れた効果を得ているのだろう。こう書くと、どちらも似たようなものだと書いているようだけど、土台がリアルな世界である分『都市と都市』の方が試みとしてより洗練され、自分のようなカジュアルな読者には効果が読み取りにくくなっているのでは、と思った次第。



いずれにせよ、『ペルディード』を読んだ手応えをもって、もう一度『都市と都市』を読まなければと思う。

『ペルディード』の解説には、2013年には、チャイナ・ミエヴィルの作品が2冊訳出されると書かれているので、これも楽しみだ。

本ブログ・SF小説書評・レビュー

*1:言うまでも無く誤解。翻訳は原書の出版順通り『ペルディード』→『都市と都市』の順で出ている。