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冲方丁『光圀伝』感想 冲方エンタメとの類似性

地元の本屋で購入。

読み始める前は通勤中に読むつもりだった。ところが、この本を読む前にハードカバーの『BEATLESS』を通勤中に読んでいてなかなか辛かった。さらにブ厚い本書を通勤電車の中で読むのは無理だ、ということになって寝る前にベッドの中で読むことにした。

光圀伝

光圀伝

しかし、寝る前に読む本としては、本書は問題あるかも。


若かりし光國を描いた序盤は、血気盛んながらアイデンティティの確立に悩む主人公の熱い青春の姿に当てられ、後半は、人生の完成に向かう光圀の緊張感に当てられ、いずれにせよ、読んだ後、ドキドキしてしまってなかなか眠れず、弱ってしまった。


そうして読みながら、そして読み終わった後で思ったのは、『天地明察』に比べると、SF・ラノベ系の作品との共通性がずいぶんとあらわだな、ということ。


若き光國が悩む「なぜ自分が」という問いは『マルドゥック・スクランブル』のヒロイン、バロットが繰り返し自問する彼女の原動力だし、光圀の人生を規定する「大義」は、<シュピーゲル>シリーズの登場人物たちが追い求める「正義」と重なる。


特に序盤の光國の少年〜青春期、彼が自分を上回る強者に立ち向かうシーンの緊張感と熱気は、エンタメ系作品の主人公たちが強敵とぶつかり合うシーンの熱さそのままで懐かしかった。


終盤、光圀が藤井紋太夫を刺殺した理由が明らかになる部分では、彼らの思い・思想がその後の日本史と共鳴して広がりを見せる。こうした構造は、ラストで作品世界の表裏を合わせて総括するエンタメ系作品のクライマックスと似ているのではないだろうか。



天地明察』『光圀伝』と歴史小説を楽しませてもらった。12月からは、今度は平安時代を描く新作を新聞連載するようだ。


東日本大震災の前後に渡って執筆された『光圀伝』を読むと、人の生死、時代を越えて受け継がれていくものの重さが強く感じられる。その重さは、冲方調にマッチしているようなので、今後も著者の歴史小説を楽しみにしたい。


もちろん未完のままの<マルドゥック>と<シュピーゲル>は無事に完結してもらわないと、読者としては泣くに泣けないけど。

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