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時々書く読書感想blog

藤井太洋『Gene Mapper』 これが出たから今年が電子書籍元年


この『Gene Mapper』が出たから今年が日本の電子書籍元年と言えるのだ、というのは書きすぎ?


Gene Mapper -core- (ジーン・マッパー コア)

Gene Mapper -core- (ジーン・マッパー コア)


Kindle, Kobo, Lideoといった電子書籍端末が登場し、特に、長らく日本市場への投入が待たれていた電子書籍の「国際標準」=アマゾンのKindleが出たことをもって、今年が日本の電子書籍元年だという書き方がある。

でも、電子書籍端末と対応ストアが出たから元年、と言うのはなんだか寂しい。だって、その言い方には、肝心かなめのコンテンツの部分の新しさが含まれていないから。

Kindle以外の電子書籍ストアはもちろん、Kindleストアを見ても、トップページに並ぶ書影のほとんどは既刊の本ばかり。はっきり言って、これまでのネット書店の画面と見分けがつかない。というか、電子化が進まないこともあって、悪いけれども仕入れに悩むしょぼいネット書店にしか見えない。


こんなことでは、せっかく新しい電子書籍の世界が本格的にスタートしたと言ってみても、その新しさに見合う華々しさ華やかさが無いじゃない。

電子書籍というのは、これまでの紙の本とはメディアとして異なる側面があるのだろうから、そこに載るコンテンツについても、新しい側面があって欲しい。

で、『Gene Mapper』。


電子書籍オリジナル、出版社を介さない著者からのダイレクト出版、プロモーションにおけるネットの活用、といった要素があるわけだけど、それ自体はこれまでにも試みられてきたものだろう。

ただ、個人の趣味レベルを超えた完成度でこれらの要素を可視化し、Kindleストアのトップランキングを飾って見せたのは、鮮やか。この鮮やかさには、まさに、電子書籍元年という新しい動きを告げるにふさわしい華々しさがあった。Fujii Taiyoカッケー、マジパネェっす!という感じ。


ニュースを追っていても、いまいち明るい話題に乏しい出版界。『Gene Mapper』みたいな鮮やかな動きが続くといいんだけど。



Gene Mapper』の作品の内容は、久々のハイテク・ガジェット満載テクノ・スリラーということで、何か懐かしさも感じた。

そのガジェットのアイデアが、仮想現実、拡張現実、強化現実……と、視覚効果に関連するものに大きく偏っているのが、この作品の特徴。2012年はGoogle Glassが注目を集めたが、そうした動向を素早く取り込んで/タイミングよく呼応して、視覚効果関連の技術の将来の可能性を「可視化」してくれている。

一方で、視覚効果にこだわりすぎというか、その関連で全てが進んでしまうのが、この作品の限界かも。せっかく、バイオ/遺伝子組み換えというもう一つの大きな柱があるんだから、ストーリーラインも複線化して話を膨らませて欲しかった、というのは読者として欲張りすぎ? でも、活躍するのがオジサンばっかりで、女性キャラクターの活躍という意味での鮮やかさ・華やかさも欲しかったんだよね。