メディヘン5

時々書く読書感想blog

感想:ジェイコブ・ソール 『帳簿の世界史』

人類の歴史の中でも、これほど進歩が遅い技術分野は珍しいのでは。「すばらしく輝かしく、途方もなく大変で、圧倒的な力を持ち、しかし実行不能」(ディケンズ)という帳簿・会計の歴史をたどると、会計をうまく扱って成功するには生活・文化の一部に溶け込むほどの「ルール化」が必要。そんなことをできる人間は多くなく、いい加減になって失敗するという繰り返し。現代では超複雑化してしまって把握不能(だから悪事の温床となる)という段階まで来てしまい、あとは、仮想通貨・暗号資産化してAIにお任せするしかないのかもしれない。

『帳簿の世界史』と言いつつ西洋史だよな、という他の方の指摘に同感。おまけとして編集部による日本の帳簿の歴史についての簡単な記載があるのはいいとして、日本には独自の帳簿の「発明」があって複式簿記相当が使用されていたとか、しかしゼロが使用されていなかったとか、その歴史から西洋式簿記への移行が済んだと言われると、もっと詳しく知りたくなる。網野善彦氏の『日本の歴史を読み直す』に描かれていた非農本主義的日本、という歴史の見方にもかかわりそう。

あと、複式簿記が地中海や欧州内貿易から生まれたという話に対して、イスラム商人やインド商人が活躍したというアラビア海やインド洋の貿易では、どんな帳簿が使われたのか知りたくなった。この本ではキリスト教と帳簿の関係についてかなり触れられているけど、イスラム教も商業についてはいろいろうるさいみたいだし。