感想:高山羽根子『暗闇にレンズ』
「暗闇にレンズ」が浮かんで見つめているというイメージが不穏。
一人称の女子高生パートのSideAと明治時代から始まる母娘たちの映像に関わる人生を追うSideB、いずれもレンズという「眼」を意識するとやはり不穏さが募って展開にハラハラさせられる。さらに、正体不明な映像兵器についての偽史エピソードの数々に不気味さが募る。
自在に組み合わされたさまざまなエピソードの陰影のコントラストに、小説で描かれた映像、という印象を受けた。大森望がプリーストの『隣接界』になぞらえた(WEB本の雑誌・新刊めったくたガイド)のも納得。大森さんが、SFでいえば改変歴史もの。『奇術師』を読まずに『魔術師』を書いた小川哲に対して、『隣接界』を読まずに『暗闇にレンズ』を書いた高山羽根子は、すでに円熟期のクリストファー・プリーストの域に達していると発言。「だってプリーストだもん」というとパワーワードが飛び出しました。ナチュラルボーン・プリースト!
内輪 第361回
ただ、中盤に挿入された、映像が関わらない「種」のエピソードにはどう読めばいいのか戸惑った。けれども、振り返ると女性視点というものを強烈に意識付けされたのは確か。
読書メーターに投稿された他の方々の感想が大変参考になって、良い読書会に参加したようで嬉しい。レンズで写すことの暴力性、映像を映すことの暴力性、映像の存在が引きおこす暴力性。プライバシーや歴史認識、表現の功罪といった現代の危機を立体的に俯瞰しつつ、女性が感じているであろう儚さや哀しさが表現された極めて今日的な問題意識に富んだ傑作だと改めて思う。
外部リンク
作家の読書道 第221回:高山羽根子さん - 作家の読書道
- 著者・高山羽根子氏へのインタビュー