谷甲州『パンドラ』 久々の本格"日本SF"
年末、カミさんの実家へ娘を送り出すため東京駅まで見送りに行った際、オアゾの丸善で衝動買い。
- 作者: 谷甲州
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/11/22
- メディア: 文庫
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いやぁ、久々にアニメ成分もライトノベル成分も含まれてない、純粋・本格の日本SFを読んだ気分。言い換えれば、昔、小松左京や山田正紀を読んだころのわくわく・どきどき気分を味わえたということですが。
物語は、主人公である生物学者(生態学者?)がフィールドワーク中の東南アジア各地で出会う異変からスタート。そこに、日本人の女性宇宙飛行士が国際宇宙ステーションで遭遇するクライシスや、グレートバリアリーフに生じた異状のエピソードが盛り込まれ、異変が地球規模に拡大していく。
この序盤、普通の人が気づかない前兆があちこちで起こり、次第に地球規模の危機が予感されていくという雰囲気は、小松左京『復活の日』とかウィンダム『海竜めざめる』といった破滅テーマSFの傑作が思い出されて、かなりグっと来た。出だしの「ヒマラヤを越える渡り鳥」という谷甲州のシンボルのような情景も含め、谷作品独特のフィールド描写の熱さもなかなか。
中盤は、軍事的アクションを含めた国際社会の対応の模様が中心で、一転して軍事スリラーやポリティカル・クライシスのノリ。海外派兵された自衛隊が無闇に格好良し。このへん、ノベルス作品の経験が活きてます、という手際よさ。
後半は、完全に宇宙ハードSFな展開。国際宇宙ステーションISSを原型にした「現実的宇宙戦艦」が艦隊組んで飛んで行くという、ハードというか悲壮感溢れる宇宙戦争の描写にドキドキしつつクライマックスへ。
序盤の多視点の構成から終盤は主人公の視点に絞られて行く展開は、もう少し凝ってもらえたら嬉しかった。しかし、これは仕方がないところか。この描写の密度で構成を複雑にすると、文庫本4冊じゃ収まらなくなってエラい分量になっちゃうだろうし。
いずれにせよ、21世紀に入ってもこれだけの大作SFが日本で出版されるというのは喜ばしいことです。