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時々書く読書感想blog

古川日出男『アラビアの夜の種族』

アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)アラビアの夜の種族 II (角川文庫)アラビアの夜の種族 III (角川文庫)

いや、これはまた凄い。なんの準備も無く、いきなりオールタイム・ベスト級にぶちあたってしまった。って、いまさらだけど。なんで、こんな本を今まで読んでなかったんだろう>自分。ああ、もったいない。

日本SF大賞受賞作、というのは、これまであまり意識してこなかったんだけど、やはり「賞をとるだけのことはある」ということなんだろうか。これは、宮部みゆき蒲生邸事件』(第18回、1997)とか未読の受賞作も読まないといかんな・・・・・・

この『アラビアの夜の種族』、単純に読んでも次のような4層構造になっていることはわかる。

  • 著者・古川日出男がこの物語を上梓するにいたったいきさつを巡るストーリー
    • ナポレオンのエジプト遠征とそれを迎え撃つマムルークたちのストーリー
      • それと表裏一体となった、奴隷アイユーブによる「災厄の書」誕生のストーリー
        • 本書の中心にして「災厄の書」の中身である妖術師アーダム、魔法使いファラー、盗賊サフィアーンと大迷宮・阿房宮を巡るストーリー

語られる量の多寡はあるものの、いずれのストーリーも仕掛けが凝らされていて、魅惑的ななことこのうえ無し。


ナポレオン云々については、別にこの人が出なくても物語としては成り立ちそうで、なんでこの人が出てくるの?というところがある。だけど、著者自身が関わる一番外側の現実・現代と中心であるファンタジジー世界の間に、近代の象徴の一人であるこの人物が登場することにより、物語全体が収まりよく接着されているのだろう。もちろん、「あの」ナポレオンが登場することによって、一段と物語のスケール、重厚さが増しているということもある。

メインのストーリーでは最後には一つの世界と化してしまう大迷宮・阿房宮の描写が秀逸だけど、一方で、迷宮とそこに住まうモンスターを退治して暮らす戦士/魔道士たちの社会が成立していくあたりがRPGの設定みたいでなんとも現代的。ウィザードリィ・ファンにお勧めとされるのもよくわかる。

ウィザードリィを下敷きにした作品には楽しませてくれるものがいくつもあって(押井守Avalon 灰色の貴婦人』とか、最近では深見真ヴァンガード』とか、捻りの効いたところでは、火浦功ファイナル・セーラークエスト』なんかも?)、今後もそういう作品が出てくるのを楽しみにしているのだけど、これだけの重厚・大作は滅多に望めないんだろうなぁ。

いずれにせよ、古川作品は、これと『ベルカ』しか読んでいないから、まだまだ読む楽しみがあってラッキー、ラッキー。

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