小林泰三『天体の回転について』
小林泰三という人はホラー&スプラッタの人だと思って敬遠してきたのだけれども、『海を見る人』を読んで、その抒情ハードSFというような雰囲気に感激。以後、自分的には、「注意して読むべし」という作家となった人。『SFが読みたい! 2008年版』の刊行予定にあった本書『天体の回転について』は、いかにもハードSFっぽいタイトルで、期待していた次第。
天体の回転について (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
- 作者: 小林泰三
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/03
- メディア: 単行本
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書き下ろし1編を含む全8作品を収録した短編集。ホラーというかスプラッタな成分も結構強かったけど、それを補って余りあるSOWは期待以上で、楽しませていただきました。
- 「天体の回転について」
- 「灰色の車輪」
- 人間をはるかに超えたロボットにロボット三原則は適用可能か、という三原則テーマもの。
- 「あの日」
- 無重力状態が当たり前の環境で育った少女が地球を舞台にしたアクション小説を書くとどうなるか・・・・・・オチを想像することなく少女のトンチンカンぶりを楽しんでいたら、話が一気に変わってビックリ。
- 「性交体験者」
- セックスと性別の意味がまったく異なるものとなった世界で強姦殺人事件の解決に挑む女刑事を描くミステリー・・・・・・だと思うけど、女刑事の事件解決方法はミステリーとは言えないか。収録作中、スプラッター度最強。
- 「銀の船」
- 人面岩の謎を背景とした地球人と火星人のファースト・コンタクトもの。もちろん、そんな単純な話ではないけれど。
- 「三〇〇万」
- 肉弾戦で宇宙を制覇してきた宇宙人種族が地球に襲来! 肉が裂けようが液体が飛び散ろうが、宇宙人同士の戦いだと、スプラッタ性をまったく感じられないところが不思議。ごく単純に楽しませていただきました。
- 「時空争奪」
- 著者あとがきに曰く、真のタイム・パラドックス以外はたいした問題ではないはずなので思い切り書いた、という時間テーマ作品。時間テーマの良作というと、物悲しかったり不気味だったり妙に感情に訴えてくるところがあるけれども、本作もその点は変わらず。
表題作を除けばハードSF的なしかけはあまりなく、より自由にSFのいろいろなテーマ、スタイルを活用した作品が集められているなぁ、という印象。その点、『海を見る人』よりふつうの人向けかもしれない。スプラッタ成分は結構強めだと思うが、自分的にはちょっと強めのスパイスといったレベル。
あちこちにネタ*1が仕込まれているのが楽しいが、ちょっと同人っぽくなっているかも。